半ドンのドン

  由樹さんは落語家の如く次々と言葉を紡ぐ。別人を演じ分けたりするわけではないけれど、サゲヘ向かって情報と推理を絡め合わせ展開してゆくのは聞いていて胸が躍った。


 一方、小谷青年の手帳からは八月の最終土曜日に島野さんから話を聞いたことが判明した。余談になりますが、当時の土曜日は半ドンって言って午前中は仕事してたんだって。「おまえら」が言ってたこと本当だったんだな、疑ってごめん。半ドンって何って感じだったけど。いや、今でも何って感じだけど。ドンって何。日曜日のこと?


 それはさておき半ドンは二人が飲みに行った日で、由美子さんに迫るあの男を島野さんが止めに入ったのは八月。それは確かだが具合的な日付は不明らしかった。ただ、そのことがあった日の夕方に島野さんは仕事の途中で庁舎へ戻り由美子さんを自宅に送り届けたそうだ。なんかキュンキュンする。




*****   *****   *****   ***




「あの男がどんな生活を送っているかはわかりませんが、必死なんだと思います」

「食費の確保など含めて、長い目で見た時に由美子さんはんでしょうね」



 あー確かに、パンもらえるかもしれないし。むしろそれが目的まであるような気がしてきた。その必死さで働けばいいのに。バイトしてるって言ってたっけ。



「その男は今でも庁舎に現れているんでしょうか?毎日?」


 

 小谷青年の口にした疑問に僕と由樹さんは顔を見合わせる。あの日以来この土地へ来るのは今日が初めてだった。



「すみません、調べます」

「いいえ、よかったら私に調べさせてほしいと提案したかったんです。島野も把握していないようだったら由美子さん本人に聞いてみます。迷惑をかけるかもしれないと思ってもしかしたら話せていない可能性もありますので」



 それを聞いて由美子さんは奥ゆかしい女性なのだと想像する。そしてあの男の同情心を誘う手口と彼女の胸中を考えると心配になった。28日を待ってなんかいないで早く何とか手を打てれば。



「―――――お願いできると助かります」

「勿論です。それと軍師のことなんですが。銀行の外に出るのって限られた時間だと思うんです」



 余計なことだったらごめんなさい、と前置きしたうえで小谷青年は証言した。


<銀行の執務室内には給湯所も御手洗いも設けられている>


 このことにどんな意味があるか―――――職員間でも知る者の限られた新しい情報だった。



「それは知りませんでした」



 由樹さんを驚かせたのが嬉しかったのか小谷青年が少しはにかむ。



「だからか彼女を庁内で見かける機会は少ないですし、それもあってフアンの方々もわざわざ会いに行くんだと思います」

「参拝ですね、なるほど」

「参拝・・・!!!」



 目から鱗みたいな顔をして、またしても小谷青年はメモを取る。真面目なんだなあ。使い処あるかなあ。



「私は銀行のバックヤードに入室したことはありません。人から聞いた話なんで確証はないんですけど、でも確かなのだと思います。ですから、」



 その情報が正しければ軍師が銀行の外を出歩く可能性がある時間帯は出勤・退勤を除けば昼休憩にほぼ限定されると仮定できる。



「銀行の外に出るという根拠でしかありませんが」

「十分です」

「続けてください」



 島野さんが庁舎に滞在するのは昼前の小一時間で、その時間帯を外せば由美子さんに近づくことは難しいことではないのではないか。というのが小谷青年の見解だった。逆に考えれば今まであの男は、通勤時間を含めたその時間を狙って軍師に会いに来ていたのではないか。




「それと島野は他にも支所や民間の企業に配達をしているので、此処へは決まった時間以外に来ません。頻繁に来ているなら、その男は島野の動向を把握しているということもあるのかなあと思いました」

「貴重な情報をありがとうございます」



 

 小谷青年が溌溂と自分の推理を発表するのを見て頷き、由樹さんが名探偵の顔付きで再び眼鏡を光らせた(と思いながら見ていると個人的には面白い)。


 



「―――あの男にはその確信があるんだと思います。あれと島野さん二人を同時に見かけたことは私も一度もありませんでした」



 由樹さんが庁舎で時間を潰すことがなくなってから一週間近くが経つ。時間は早送りされることなく流れていて、予告の日までは十日も残されていなかった。由樹さんがいてくれなかったら、僕一人だったら―――――そう考えただけで心細くてたまらない。今日に至るまで何の進展も無かったかもしれない。これほど布石を揃えることはできなかったに違いない。


 


「島野が不在の時間は私が気を付けて売店を見ておくことにします。由美子さんが心配ですから」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」




 救われる未来に近づいている。頼む、救われてくれ。




*****   *****   *****   ***




 店の前で別れると小谷青年は庁舎の方角へ消えて行った。近くに借りているという月極駐車場に車を取りに戻ったのだ。


 島野さんの反応なんかは電話で報告してもらうことになっている。こちらも軍師から得た情報で由美子さんに向けての注意事項などがあれば連絡することになった。次の現地入りは来週の月曜、9月26日だ。28日の由美子さんの護衛に入る。ヨシッ!



「駐車場代は自費です。ガソリン代は距離によって計算されます、月に数百円程度でしょうか」

「うわあ」

「令和でのお話になります」



 由樹さんのシビアな呟きに僕は衝撃を受けた。



「私は徒歩で通っているので無関係な話なのですが」

「あっ。そういえば由樹さん、ご自宅のある場所って見に行きましたか?」

「はっ!」




 ご実家も地元だから車でならば通勤が可能らしい。だが本庁での勤務が決まり大学を卒業したタイミングで地元へ戻る際、職場の近くに一人暮らしのアパートを借りたという話だった。大学名を聞いた時には変な声が出た。有能なわけなのだよ。



「まだ時間ありますし、行ってみませんか?」

「いいんですか!?」

「行きましょう、行きましょう!」




 ぶっちゃけると食べ過ぎてお腹が苦しかったのだ。少し歩きたいんだよね。


 今は16時半になるところで、僕たちは昼過ぎから随分話し込んだことになる。軍師とは18時にあのイタリアンレストランで会う約束をしていた。














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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 



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