言葉にするならば



「あくまで推測になりますが」



 由樹さんは苺ショートの生クリームを鼻につけたまま真面目な顔をして話し始めた。小谷青年はそれが気になって仕方ないようだ。話が頭に入らないなんてことがなければいいが。



「軍師—――銀行員の彼女には味方が多いでしょう。日頃の行いによるものです。何かあればファンの職員さんもパスタ屋の従業員さんも、きっと過去に訪れた店からも彼女に対して肯定的な証言者が現れることと思います」


 言われてみればそうなのだろうと納得ができる。例えばあの場でもっと強気に出るような態度を取ったとしても彼女を悪く言う者は出てこなかったのではないか。そこに嫉妬等の個人的な因縁が絡んでこなければの話だが、なんなら庇う者、加担する者すら現れたかもしれない。


 僕も由樹さんも、あの場面でしか彼女のことを知らない。だがその印象は決して悪いものではなく、どちらかというと好感を持てるものだった。恐るべしカリスマ軍師。




「夏海さんのおっしゃる通りだと思われます。では、お二人は相手の男にどういった印象をお持ちでしょうか?私は大変な卑怯者だと感じています」

「印象は最悪ですね。理由は口に出すのも気持ち悪い」

「私もこの目で見たわけではありませんが」



 小谷青年も首を縦に振った。振りながらテーブル越しに手を伸ばして、おしぼりで由樹軍師の鼻についたクリームを拭った。二人とも無言だった。


 僕には卑怯者という言葉は思い付かなかったからハッとする。それだ。とても狡い人間なのは間違いないと漠然とは感じていたけれど、言葉という形にするならばあの男は卑怯者だ。




「断りにくかったり責めるのを躊躇させるような、いかにも憐れを誘うためのエピソードを持ち出していたのが気になりました。相手の親切心に付け込む傾向が強かったように見受けられましたし、恐らくですがエピソードに関しては虚言であると想像できます。それらが私が卑怯者だと考えた根拠です」

「すげえ」

「・・・常習犯の手口でしょうか」



 小谷青年もやはり、さすが。心理や性質の分析が僕にはできないので印象だけで言うと、同じ感想だった。人の良心に付け込むことを手段とする―――――




「寸借詐欺の常習化だ」

「すん・・?」



 未来では時々いるのだと由樹さんが説明した。自身の品位を落とさぬために、できれば使いたくない用語ことばを使わず済むようにと新しく流用された言葉の一つである。元からある言葉で呼ばれる人々の方がプライドが高いと思われるし、それに人の迷惑にもならないと僕は思うようになった。



「私もそう思います。あの男の発言からして知能はそれほど高くないと考えられますので、繰り返すうちに本能的に嗅ぎ取っているのではないかと。知り合いになれば相手は断りにくいであるとか、しかも困っていることをアピールすれば応じてもらえると無意識のうちに身に付いたと言いますか。ここで常習である可能性が高まります」



 他にも思うところはあるが後に説明すると由樹さんは言う。焦らし上手かよ。たぶん軍師と話して確証を得たらということだろう。



「損害は一度に千円程度ですから、払わなければこちらが吝嗇であると周囲に印象付けてしまいかねません。ならば払ってしまった方が話は早い。それにあの男が無銭飲食でもすればお店にも迷惑がかかります」



 まさしく他人の良心に付け込んでいるではないか。ロックオンされたが最後、デメリットだらけじゃん。関わってはいけない人間というものは存在するのだと恐ろしくなる。




「それに異性に対しては好意を見せれば更にその傾向が高まると―――――あの男の様子からすると、そう思い込んでいる可能性は強いと思います。そして同性には声がかけにくいということもあるのだと考えられます」

「怖いからっていうのもありそう」


「おおいにあると思います。あの男には軍師に返済できる数千円の宛も見られませんでした。ですがどんな理由があるにしても彼女を繋ぎとめておきたいとは思っている筈です。よって先ずはその数千円を集金したいと考えた場合」



 由樹さんは指先で鼻を触る。ちょっと赤くなっていた。



「引き出せる相手を探すのに必死なのではないかと。その点で由美子さんは条件がいい。と言っても金銭だけが目的であれば定職に就いている相手なら、それこそ男性でもいいわけです。その場だけであるのなら猶のこと誰でもいい。そこへきて、これは仮定ですが。ちょうどよく実家を知るという弱味まで握ることができた、となれば」



「軍師へ接触する希望が薄れた今、由美子さんをと見ている可能性も考えられませんか?」



 挙手をした小谷青年の発言を聞いて軍師の眼鏡が再び光った(ら面白いな、と僕は思った)。話難しいんだもん。昨日飲み過ぎたかも。由樹さんよく平気だな、感心してる。頭が回るし饒舌だ。




「捨てきれません。と言うよりは、その可能性はかなり高いものであると思われます」  



 僕が未だ見ぬ由美子さんは働き者で明るく、小谷次長から聞いた話も含めて想像するに素朴な魅力に溢れた女性だった。それに実家もお店をやっていて、変な言い方になるのを承知で言うがしていた。生活が安定している。




 対して、あの男はどうだ。


 彼は僕の知り合いでもないし、彼のことを何も知らない。直感でしかないが危うい人種であると感じ取っている。そしてあのレストランでの一コマを見た限り、少しでも良識のある人間ならば絶対に選ばない―――――できないであろう言動をとる人間であることは間違いない。


 人間ヒトとしてギリギリ最低限の羞恥心を持っていたようには見えたとフォローしておこうか。先入観て持たれるのも持つのも嫌いなんだけどね。ウンザリする。でも今は僕のそんな話は置いておいて




 あの男が由美子さんに並々ならぬ執着をしていると考えられることは僕にも想像ができた。



















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。








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