パワーワード
軍師がその行動を取った具体的な理由と目的とは。
僕には話を追って想像を巡らせるのがやっとだった。僕と違って賢い小谷青年も首を傾げる。
「復讐を恐れて?その予防の為にでしょうか?」
「・・・暴れられたとしても誰かが止めに入ってくれるから?」
「そのどちらともだと思います。他にも理由があるかもしれませんが冷静に考えてのことだったのだと私は考えます。突き詰めた末の結論として。軍師、いえ彼女は相手の男に対して何か危機感を持っていたんだとは考えられませんか?」
「わかります」
あの男、あの場では下手に出ていたが自分よりも力の弱い者に対しては強く立ち振る舞うような度量の小ささというのか―――――軍師との会話から想像するに過ぎないが感じられた。何か偉そうに感じられたのだ。
由樹さんのいう通りだとすれば軍師が人目の付く場所を決闘の場に選んだことも納得ができる。あの場には人目もあったし僕らも含めて男性は何人もいた。軍師もあの男の異常さを察しているという説得力も出てくる。相対的には誰しもが爆発することなんかあるといえよう。ただ顔を真っ赤にしたあの男の沸点が寸前のところまできていたのは確かだろう。
「軍師は、その男が暴れたら店の迷惑になるとは考えなかったんでしょうか」
「暴れないという算段があったのではと私は考えています。それまでに何か、あの男がそうできないと見抜くような出来事があったのではないか、と」
その時と同じように由樹さんと目が合う。
「なんとか第三者が見ている前で“この男とは恋愛関係にない”“お金を貸している”といったことを顕示しておきたかったのだと思います」
ふと民事不介入という言葉が頭の中に浮かんでくる。小谷青年が呟いたのも同じ言葉だった。窓口で受ける相談によっては用いることがあるのだと想像できる。
「やはり危機感や恐怖心があったのだと思います。例えばですが一対一の時は女性である軍師に対して虚勢を張って見せていた、過去のろくでもない武勇伝を猛々しく話したりということがあったかもしれません。」
「そんなの絶対、やべえ奴だなってなるのに」
いるわー。と僕は相槌を打つ。でも“やべえ奴”って怖いよ。
「然りです」
「や、やべえ奴って・・!デュフフフフッ」
小谷青年が笑い出した。なんだか後を引く予感がした。
「夏海さん、今のはこの時代には些かパワーワードだったかもしれません」
由樹さんが言うとますます深みに入ったようだ。藁半紙の端にメモまで取っているのを見て僕たちはニッコリする。ネットで初めてそれらの言葉を使うのは彼になるのかもしれない。てゆーか由樹さん今の絶対わざと畳みかけたじゃん。恐ろしい子。小谷青年は含み笑いが止まらない様子だ。
「では、そのままお聞きください。軍師は自分に何かがあったとしても目撃者はいる―――――目撃者を作るという保険をかけておいた」
万が一の、一触即発の事態が起こったことを想定して目撃者の複数いる場を選んだ。訣別を申し渡す場所として。あの店の従業員とは気心が知れている。店を指定したのは男の方だったという話だが、誘われた時点で男が支払いをするつもりが無いところまで見込んでいたのだとすれば。あとは
そんな構想を練られるような期間—――――それほど、嫌気がさすほどに執拗に誘われていたのかもしれない。まあ誘っておいて「会計はよろしく」だなんて2回でも十分な実績だとは思うが。そして
あるいは、二度目の食事では決定打を得るために敢えて誘いに乗った可能性もある。泳がせるのが目的だ。
「っていうのはどうでしょう?」
「それは大いにあると思われます。あわよくば前回立て替えた分を回収できるかもしれない。でも今度は財布を盗まれていた」
「今度返すから、とまた誘ってきますね」
小谷青年は相変わらず冴えている。笑いは引っ込んでいた。
「腹立たしく思ったかもしれませんが、これで軍師の
訣別を申し渡す準備は整った。だが、もしも
三度目には男が払うと申し出た場合どうしただろうか?前回までに立て替えた分を返してきたならば、その場合は。
「誘ってきた時から返す素振りはなかったんじゃないですか?どう見ても返せる様子ではなかったとか」
「私もその辺りだと思っています。これから本人に確認する次第です」
「―――――でも僕、ちょっと気になります」
もし返されていたら軍師はどうしようと思っていただろう?それはそれでいいのだろうか。でも誘ってくるのをぶった斬れなくなる・・・あ、――――—
「夏海さんの思った通りだと私も考えています。金銭面での問題が解消されたとしても、軍師があの場を選んだことには意味があります」
「そうか、付き合っているわけでもないのにと軍師は何度も言っていましたね」
相手に念を押すという意味でも周囲に印象付けるという意味でも強調したことは後に重要になる。実際に・・・と今は言い切れないが、金銭のことに関しての問題は解消しないまま二人の関係は破綻した。彼女が強制的にさせたのだ。
立て替えた数千円には執着していなかったか、恐らく無いとは思うが別の回収方法を案じているか。しかし、やはり後者は考えにくい。小谷青年が口を開いた。
「立て替えたお金は初めから捨てるつもりだったのでは?」
僕も同じことを考えていた。手切れ金のつもりで割り切っていたのだ。そうなると、やはりあの男を遠ざけたかったのが一番の理由だと考えられる。「もう誘わないでほしい」と一言伝えるだけで済む話でもあったが、それが通じない相手だと察した故の大立ち回りだとするならば、やはり由樹さんの見解に辿り着く。
すなわち軍師は身の危険を感じていたという見方が強い。もしかしたら命に係わるくらいの―――――
例外として軍師が凄まじい極サディストと考えたら、先述の由樹さんによる“だったら隠し玉があった筈だ”に当てはまらなくなる。よって彼女は善良で有能な軍師であると暫定する。
由樹さんが切り込んだ考察の数々は各々の局面にどれかが必ずヒットすることとなるだろう。それらの仮定の真偽はこれから確認する段取りになっていた。手筈を整えたのは勿論うちの軍師だ。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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