名探偵よっちゃん

 島野さんの救済と汚名の払拭は勿論のこと、由美子さんを脅威から救い出すことが僕たちの先行任務となった。



「小谷さんは由美子さんに付き纏う男に心当たりはありますか?」

「ありません。でも職員ではないと思っています。すぐ噂になりますから」

「ありがとうございます。さっき申し上げたように、僕たちには少し心当たりがあるんです。確信を得るのはこれからになりますが」



 そこまで話して僕は由樹さんを見る。彼も僕を見て頷いた。ここからは由樹さんのターンだ。



「では話は変わりますけれど、小谷さんは銀行員である若い女性のことをご存じでいらっしゃいますか?優しそうな可愛らしい方です」

「多分わかります。フアンがたくさんいて、わざわざ用事を作って銀行に行くって人もいると聞きます」

 


 なんかわかる。あのお姉さんは初対面の人に対して邪険にはしなさそう。癒し系という言葉は未だこの時代には生まれていないんだっけ、古いと思っていたけど。僕が納得していると小谷青年がこっそり「若い女性はあの方だけなんで」と言い加えた。




「夏海さん。最初にごちそうになった日なんですが、銀行員の女性と一緒だった男を覚えていらっしゃいますね?」

「勿論ですたい」




 忘れる筈が無い。あれほど視覚的にインパクトのある人はそういない。しかも悪い意味では滅多にあることじゃなかった。




「このことについて、私に話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」



 そう由樹さんが持ち掛けてきたのは昨晩のことだ。自分の推理を披露したいとのことだったので是非に是非にと僕は大いに賛成し、この場は黙っていることにした。



「そう。全てがダサかったその男です」

「そんなのがいたんですか?」



 由樹さん結構おっしゃいますね?その小気味よさに釣られて小谷さんも興味深そうに再び身を乗り出してくる。テーブルにぶつかるのは危惧したようだった。


 ああ、そういえば。


 店を出た後で「あの男を見たことがある」と聞いて以来、あの男が話題に上ることは昨日まで無かった。日々は目まぐるしく巡っていた、真っ当に働いていた頃よりもずっとだ。これが僕の選んだ過去みらいだということになる。楽しくやっているよ。


 それに由樹さんと話すことなんて、もっぱら今日何を食べたいだとか読んだ本についてのことなんかばっかりだ。テレビも予定していたほど見ていない。宿泊先で昨晩は此度のミッションについて全容を話したが、彼がこのターンに何を話すかは聞いていない。その方が面白そうだと思ったから。


 僕の方を見た後で、小谷青年に向けて由樹さんは切り出した。



「その男が由美子さんに話しかけるのを何度か見たことがあるんです」



 実家の店名が印字されたコンテナでパンを運ぶ彼女にしつこく話しかける姿を。頻度を考えて早朝と昼前だったのではないか。自分が代わりに運んでやると申し出たのかはわからないがコンテナを奪おうとしたことすらあった。男は遠目にもよく目立った。



「単純にパンを奪おうとしたとも考えられますが」

「あー。あれを見ちゃった後だと、そうですねえ」



 僕も時々は口を挟む。




「あれ、というのは?」




 *****   *****   *****   ***




 由樹さんは興味津々の小谷さんに、あの日見たことを理路整然と説明した。自分もその場にいたかったと彼は大層悔しがった。



「私も近くにいたわけではないので」



 それどころではなかった頃だ。思えば今日は由樹さんの顔色が少し優れて見える。



「男と由美子さんが話していた内容はわかりませんが、今思うと彼女は困惑しているようでした。お客さんだから強く拒むこともできないという感じに見えて」

「―――――由美子さんらしいです」

「そこに付けこんでかなり付き纏っていたように見えました。とても迷惑そうでした、今思うとなんですが」



 その時明確に気が付けなかったことを悔やんでいる。


 由樹さんはそういうが、相手はちょっと珍しいくらいに大きな体格をした男だった。それに規格外に変な服装をしている。人を見た目で判断してはいけないと思うけれど、関わったら自分にも危険が及んだかもしれない。人を呼んだとしても恨まれそうだ。



「ここまでの話を踏まえた上で、私はあの男のことを本当に危険人物なのではないかと考えています」




*****   *****   *****   ***




「あの銀行員の女性は、敢えて他者の見ている前で支払いの話をしたんじゃないでしょうか」




 言われてみれば、と思い出す。なんだか彼女の言葉は満を持したようだったと今は思う。僕自身が咄嗟に言葉が出なくて、後から「あの時こう言えばよかった」と後悔することが多いせいかもしれないけれど。



「何度か立て替えているような話でしたもんね」



 用意していた言葉のような、相手からも言葉を引き出すチャンスを待っていたような。貸した金銭を返してもらおうというよりは、ここで白黒つけてしまいたいという意思が感じられた、あくまで気がするだけではあるのだが―――――。



「夏海さんありがとうございます。彼女はまさに白黒つけたかったのだと私も考えています。例えば、二度と食事に誘われないようにしたかった」



 眼鏡がキラリと光ったように見えた。漫画ならそうだっただろう。名探偵・由樹ここにあり!



「しかし必要以上の追撃はせず言い返せるだけの逃げ道は作ってやった。男の異常性に気が付いていたからだと考えています。恥をかかせようと思ったなら幾らでも隠し玉があったと思うんです。服が変とか話が面白くないとか」



 グサッときたのか小谷青年が胸を押さえた。小谷さんは大丈夫ですよ、と声をかけてあげたくなる。



「例えば盗まれた財布が戻ってきたのか、というくだりです」



 由樹さんがその時の会話について簡潔に説明する。



「あの時彼女は財布を買ったのか質問することもできたと思います。でもしませんでした」

「・・・・・買ったと答えたら“お金持ってるじゃないか”とも追及できますね。そうなったら八方塞りだ」



 小谷青年も鋭い。確かにその通りなのだ。僕はといえば引っかかるところはあったものの、佳樹さんの推理を聞いて初めて釈然とした。逃げ道を残した彼女はまた賢いのだろう。


 座ったまま彼女を睨み上げる視線は、なんと表現していいか解らないが異様だった。見たことの無い獰猛さというべきか。今にも逆上して暴れ出しそうな危うさが感じられた。


 腫れぼったい瞼の下の黒目は小さく白目部分が血走っていた。人を見た目で判断してはいけないけれど、その目付きに宿った猛烈な何かから一触即発の危機感が禁じえなかったのだ。



 憤懣が爆発する寸前に見えた。我慢して抑えているというよりは、人目を気にして炸裂させられないだけのようにも。ならば逆に―――――人目があったから抑えざる得なかったのだと考えれば、どうか。




「銀行のお姉さん、有能な軍師みたいですね」



 小谷青年の言葉に僕も首を縦に振る。改めて、お姉さんかっこいい。して名軍師の、その采配は。あの男の抱える憤懣とは。




















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。


  

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