ブランカ会議 隠しミッション

 さて、牛乳屋さんの話に軌道を戻そうか。


「ええと、未来のことはわかりかねますが現在の販売の状況は仰る通りだと思われます。島野が引き取ってくれるので瓶を洗う必要もありませんし、1階まで買いに来てその場で飲む人が多いんです。席を外す口実にもなるからそのまま時間を潰すこともできますし」



 小谷青年の言う通り職員さん達にとっても席を外すのには十分な大義名分になったのだろう。喫煙というよりは印象も良さそうだ・・・と思ったが、自分の席で吸えるんだっけ。昭和パネェ。それはいいとして実際に牛乳屋さんを利用する人は多く、特に事件の起こる前の数日間には殺到したという。



 島野さんは通常、10時半を過ぎた頃に庁舎へ訪れ乳製品の販売と配達をしていた。次の販売場所へ移動するまでの滞在時間は45分間程度だった。所要する時間の長さは場所によって違いがあったようだが15時まではそれをルーティンとしていたという。それから自宅兼事業所へ戻り内勤をするのが日課だったそうだ。


 ある日を境として牛乳屋さんに客が殺到し途切れる間も無いという時期があった。品切れになるほどで、庁舎での販売時間も拡大したらしい。当時この辺りにコンビニは無かった。


 原因は売店が休業したことだ。その正確な日付は小谷次長も失念してしまっていた。



「彼女が・・・由美子さんが事故に遭ったという頃です」



 売店の従業員である島野さんの恋人だ。現場を走り去った人物を特定することはできずにいる。彼女が何者かに付き纏われていたことを知るのも島野さんと、彼から話を聞いた小谷次長だけだった。





 *****   *****   *****   ***




 由美子さんは商業高校を卒業すると庁舎内にある売店で働き始めた。小谷さんと島野さんよりも年齢は一つ上で、ご実家は売店にも卸している駅近くのパン屋さんだそうだ。明るくてよく笑う働き者だった。次長はそう言っていた。



「パン屋さんと牛乳屋さんだなんて最高の組み合わせですね」



 これ以上ない。由樹さんがうっとりと言う。彼は過去こっちへきて食の喜びに目覚めた。それまでは「食事なんて腹が満たされればいい」という考え方だったのだと話していた。だからそんなにつくしんぼなんだぞ。体重の基準に届かず趣味の献血を断られることが何度もあるそうだ。だからそんなに以下略、パン屋さんと牛乳屋さんについては僕も激しく同意する。

 


「私もですよ。本当にお似合いなんです、あの二人ときたら」



 まるで自分のことのように小谷青年は誇らしげだ。そのままでいてほしいと僕は願う。小谷次長も未来では人生を謳歌して輝いていたが、この話題の時だけは翳りが見えた。自分の失態でもないのにそうであるかのような。近くにいた人を失った辛さと、もしかしたら救えたのではないかと抱えた後悔が錆びついて剥がれていないままだった。



「由美子さんのことについて小谷さんはどうしたいですか?」



 あたかも余裕があるような、特段興味が無いような言い方をしたけれど、これは重要な質問だった。



「防ぎたいです。何が何でも、由美子さんに付き纏う男のことも解決したい」



 数日は答えを待つ覚悟をしていたけれど、小谷青年の決意表明が早かったことで僕は救われた。



「ありがとうございます。それが聞けてよかったです」



 過去の小谷さんへ指示を出すこと、それがもう一つの隠しミッションだった。




『 1988年9月28日 』

『ストーカーから由美子さんを護れ、島野と力を合わせて』




 日付は失念したと話していた小谷次長だったが、由美子さんのお見舞いの際に病院で確認できたと後日電話で知らせてくれた。今はあどけない少年のように見える彼も未来ではクレバーなダンディだ。彼女の入院日を調べることは医療センターの経営課長を務めたこともあり難しくは無かった。ストーカーという言葉の説明は後だ。




「バレたら懲戒かもなぁ」

「それも僕が防ぎますから」



 小谷次長が日に焼けた顔をほころばせる。その時には「現時点で何処に住むかわからないこと、遠方である可能性が高いこと」「既に依頼されている雑用も日時が重なる場合があること」を理由として常に見守るのは難しいと告げてあった。告げておいて良かったと心の底から思う。


 どうしてミッションなのかっていうと、“実現”する以前に“小谷青年が協力してくれるかどうか”に懸かっていたからだ。



 庁舎内という同じ場所に常駐する小谷さんならなんとかできるかもしれない。それも無理となると難しくなる。お手上げではないが僕が当面、切り詰めて切り詰めて生活をすれば不可能ということもない。が、苦しい。


 よって心の中で安堵した。僕が常時介入できない以上、事故を阻止できる人間は限られてしまう。何故に介入できないかというと金銭面での問題が大きかった。車を入手していない今、宿泊と移動にお金がかかるのは先を考えると心細い。車を購入した後もしばらくは厳しいと考えられる。


 遠方から通うことになるため、毎日の張り込みは難しいと小谷次長に説明したことは正しかった。でもまさかこんな理由で足を止めることになるなんて。何でもできる気がしていたのに、そうでもないと知ったこともダメージが大きい。


 ただ、僕の吹けば飛ぶようなプライドでも取るに足らない見栄でもなくて。由樹さんを養うと決めたことは後悔していないと知っておいてほしい。





 *****   *****   *****   ***





 さて、由美子さんのことだが


 できれば、とのことだったが僕は是が非でも実現させたい。何が何でも。彼女の事故を防げれば事態は大きく変わる。諸説あるが――――――嘘ばっかりだが、彼女に起きた事故のことを恨んだ島野さんが庁舎に爆破予告を送ったのだという筋書きが一節として語り継がれていた。


 何より罪もない彼女を悲運から防げる可能性があるのならば、必ず防ぎたい。



「幸いと言ってはアレですが、僕たちは付き纏っていると思われる男を見たことがあります」

「本当ですか!」



 小谷青年が身を乗り出した。テーブルにぶつかり、グラスの水が波打った。




*****   *****   *****  ***




 お金が無いって辛いね。根付いた生活水準の低さが、順応することが紙魚ついている自分がもどかしかった。その半分で、自分を守りたいなら一線を越えてはいけないんだって疑わないでいるのも事実だ。



 ねえ、自分のキャパを越えてまで人を救いたいと思うのは



 一人で生きているだけだった今まではそれでよかったのに。僕には託された願いが数多ある。身動きが取れなくなるわけにはいかなかったんだ。













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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 



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