あの日の記憶

「予告って今でもあるんですか?今っていうか」

「何年かごとにありますよ」

「ひょぉ」



 >1は目を丸くする。顔にケチャップをつけてかわいい。

 それからお互い喋るのを一旦やめて食べることに集中した。再び口火を切ったのは片石さんだ。




「―――あのスレは、まだ残ってるんですか?」

「残っています。それと―――」



 あのスレが立ったのは二年前の令和3年7月だった。その一年前には候補者募集のスレが立っていたことになる。そっちを僕は見ていないので途中参加ということになるけれど、あのスレは気になって時々覗いていた。



 >1は頭を少し揺すって、また険しい表情に戻った。顔にケチャップをつけたまま一生懸命ハンバーグを噛み締めている。





 *****   *****   *****   ***




 

 僕の話に戻る。ここへ来た経緯と進捗について話したいと思っているが、原因や法則については解明できていないので事象のみになってしまうことを先に断っておきます。すみません。





「私は令和六年の三月から来ました」


 

 その日は所属の課が担当している、文書の処分作業の手伝いで外出していた。


 保管期限の切れた文書処分は年度末の恒例作業であったが、その年は少し大がかりなものだった。保管場所の古い建物が解体されるにあたり貯蔵している全ての文書を運び出す予定となっている。もう二十年近く人が住んでいない旧職員住宅で、三階建ての全ての部屋には割り振られた各部署の文書が詰め込まれていた。それが5棟、風呂にも台所にも。保管期限を過ぎて持て余されたものが多かった。


 当然いつも以上に人員が必要になり同じ課で下っ端の僕が駆り出された。そこでの落下事故の後—――――事故と呼ぶには大袈裟だが、僕は頭部を強打して意識を失い、目が覚めたら役所で玄関前のベンチに座っていた。



「作業のことで待ち合わせをした記憶があったんです」



 当初はその延長だと考えて疑わなかった。それに頭を打った記憶はあったので、ボウッすることを不思議に感じてはいなかったのだ。今思うと痛みは消えていた。連日の慣れない重労働に加え庁舎へ戻ってからは残業続きだ。寝不足だという自覚もあった。



「お茶でも飲もうと思って自販機へ行きました」



 自販機はいつもの場所にある。エレベーターホールに面した廊下の曲がり角。交通系icカードが使えないことも疑問には思わなかった。年度末だから入れ替えがあったのかもしれない。10円玉を持っていなかったので千円札を入れるが戻ってくる。それを何度か繰り返しているうちに妙だと思い始めた。お釣り切れだという表示は出ていない。そしてドリンクの価格に10円単位の端数が記載されていないことに気付き不思議に思った。試しに100円玉を入れてみるとボタンが一斉に点灯した。




「何かがおかしいと思って腕時計を見たんです、なんとなく」



 でも何がおかしいのかわからない。時刻はお昼になる少し前だった。


 ベンチに戻り女性上司を待つことにした。座っていると朝からの記憶が鮮明になってくる。上司と待ち合わせたのは午前九時だ。八時半の始業と同時に彼女から内線があり、この場所へ来るようにと指示が出た。彼女の運転で旧職員住宅へ向かい作業を始めた。お昼が近くなって「二人を迎えに行って来るから、皆でお昼を食べに行こう」と提案する彼女を見送った。


 僕は彼らを待つ間に運び出しを一人で進めていた。暑くなってきたので防寒用の作業着は脱いだのを覚えている。気温も高くなり出した時間だった。そのうち頭をぶつけて―――――思い出したら怖くなってきた。


 おかしいじゃないか。だったら、その記憶が確かなら庁舎で目を覚ますのはおかしい。おかしいということがわかったからといってできることも思いつかず、そのままベンチで座り込んでいた。



「すると二人が現れたんです」



 庁舎の奥から二人が走ってくるのを見て僕は、その時も涙が出そうになった。片石さんは口に放り込んだポテトで頬を膨らませながら聞いてくれた。メモを取っているのかと思ったが単語を拾っているだけのようだ。


 僕は水を飲んで束の間インターバルを図る。片石さんもメモを取る手を止めて、しばし二人で食事に集中する。フライドポテトには皮が付いたままだった。



「僕はポテトって皮つきの方が好きなんです」

「私もです」



 オムライスはデミグラスソースよりケチャップが好きだ。 




「デミグラスソースのオムライス食べたこと無いかも。中どうなってんですか?」

「私が食べたことあるのは確かバターライスでした」



 この近くにある喫茶店で食べたことがある。バイトの時間まで暇を潰したいという同級生に付き合ったのを思い出した。高校生だった僕にはお上品で味気なく、なんだか物足りなく感じた気がする。



「物足りないのは嫌だなあ。カレーもそうなんですけど具がゴロゴロ入っているのが好きなんです」

「わかります。カレーの具は蕩けてペースト状になっていないと嫌だっていう人いるじゃないですか」

「そんな人いるんですか?ちょっと分かち合えないですね」



 この人は「あのスレの>1」だ。そう思うと見知った人のような気になって、何でも話せてしまう気がした。




*****   *****   *****   ***




 女性上司と連絡が取れず、三人で昼食を買いに行こうと外へ出た時だ。いつものコンビニが酒屋になっていた。名の知れたミュージシャンも地方公演に使うような、市で一番大きな音楽堂は薄汚れた市民会館になっていた。それはほんの少し前、文書整理中に写真で見たばかりの建物だった。改築されるという記事が載っていたのは僕が生まれた年に刊行された広報誌だった。


 自分たちがにいるのかを知った。初めは信じられなかった。


 それでも楽観的でいられたのは二人が一緒だったからだ。自分が貴重な経験をしているかのような気分でいた。














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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。












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