二度目はすぐに泣き止んだ
「片石さん」
「ハイッ」
勢いよく返事をしたものの空返事となった。僕は言葉を繋ぐことができずに、再び意味もなく奥松さんの名刺に目を落とす。見間違いかとも考えたが、今しがた見た内容は何も変わっていなかった。少しでも、どうしても変化を見出すとすれば小刻みに振動していることくらいか。文字が揺れている。
もう一度、今度は意識的に顔を上げて彼を見る。ブリキになったみたいに自分の首が硬くて持ち上がらなかった。どうやら油が切れているようだ。運動不足かな?うん、きっとそうだ。そういえば運動不足だ。
「片石さんは先月にも役所にいらっしゃいましたか?」
「あァ・・・来ました、ね?」
下見に来たことが確かにある、ことを 彼は 知っている の ?
どうし ・・て・?・・・あ・っ
思い出せ、今朝は何故
どうして無性に彼が気になった?理由は何だった?昨日も見たからか?どうして昨日は目に留まったのだ。奥松さんとは会ったことがある?何処で?未来で?そんなはずはない。どれも違う、
でも
――――――—―――――――――このフォルムを僕は見たことがある。このつくしんぼみたいなシルエット。
「―――――――奥松さん、先月は三人でいましたよね?」
そうか。後ろ姿だったが、あの3人組の一人は確かに彼だった。
「―――はい、それは私だと思います」
そうだ、若干高めでハスキーなこの声も聞いたことがある。
奥松さんはポケットから馴染みのある端末を取り出した。それが何だかわかった瞬間、僕は急激に喉が渇くのを感じる。彼が手に持っているのは、画面は真っ黒だけれど見紛うこと無くスマートフォンだった。
「あっ、どうしたん」
「すいません」
奥松さんは眼鏡を外すと指先で目の下を拭った。僕はいつのまにか立ち上がっていたようで、そのまま水を一気に飲み干してから椅子に腰かけ直す。店内はお昼時を迎えていて満席に近い。きっと職員さんも一人くらいはいるかと思われる。目立って顔を覚えられるようなことがあってはならない。
「心細かったので、ごめんなさい。安心してしまって」
奥松さんは鼻声でそう答えた。それはそうだろう。普通に生きていてそんなことが起こるなんて誰も思うまい。おいそれと対応できる人間などいるものか。
「わかりますよ」
「・・・ありがとうございます」
「聞かせてください。他のお二人はどうされたんですか?」
水を飲もうと思いグラスを傾けるが、氷が鼻に向かって落ちてくるだけだった。ホール係の女性がちょうどサラダを持ってきてくれたのでグラスを指差した。「お冷のおかわりをください」と片言で告げた自分の声はガラガラに乾いている。
「すみません」
「大丈夫ですよ」
もう大丈夫です。
奥松さんが泣き止むまでいつまででも待っているつもりだったが、その前にさっきとは違う女性店員さんが冷水の入ったピッチャーを持ってきてくれた。
***** ***** ***** ***
「奥松さん、もしよかったら」
「はい」
「うちに来ませんか?県外なんですけど」
「いい・・んですか?」
「来てくれたら嬉しいです」
きっと楽しい。彼は賢くて、話していてとても楽しい。直感だけど、この慎ましやかな賢い友人を僕はこれからも疎ましく感じたりしないと思う。その分だけ未来へ送り出す時は寂しくなるとも思うけれど
「戻れるまでいてください」
例えば長い目で見たとして、働くにしても住処を定めるにしても、まずは身分の証明ができなければ難しいだろう。市役所で勤める彼なら僕が考えるよりもよくわかっている筈だ。身分を証明する理由も難易度も、できない場合の危険性も。うちに来てゆっくり考えればいい。
奥松さんはまた啜り泣き出す。どれほど不安だったことか僕には計り知れなかった。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
僕たちはペコペコと頭を下げ合った。奥松さんは安心できたのか二度目はすぐに泣き止んで、もりもり食べ始めた。そうだ、食え!よほどお腹が空いていたのだろう。食事が喉を通らない心境だったとも考えられるが、どちらにしても食欲があるのは素晴らしいことだ。その勢いで僕たちはフライドポテトを追加で注文した。一人一皿食べていることになる。
「やばいですね」
「でも野菜ですから」
思いもかけず久しぶりの楽しい食事だった。一人で食べるのも嫌いではないんだけど、むしろ好きなんだけど別に楽しくはないから。食事って楽しいものなんだっけ?と考えさせられた。本当に考えさせられる店だなとつくづく思う。これが同居人との出会い・・直しの出来事だった。
そして興味深いことも聞かせてもらうことが出来たんだけど、色々と端折ってしまったから詳しくはこの同居人から話を聞いて欲しい。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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