嘘みたいな青 

 タイル通りと呼ばれる歩道には飲食店やパン屋さんが縦にも横にも並んでいた。お弁当屋さんもある。うっかり食堂に入らなくて済んだことを彼に感謝せねばなるまい。


 2階にあるイタリアンレストランの壁は南国の植物や鳥が描かれていて、嘘みたいな青は空なのだと想像できる。なんというかトロピカルだが、これがこの時代のイタリアのイメージということなのか。中二階のようになっているし、この時代の片田舎では抜群にお洒落ではあると思う。店内は広くて4人掛けのテーブル席が20近くはありそうだ。中央にレジカウンターがある。


 出迎えてくれたホール係の女性から「好きな席に」と言われたのだけれど、既に半分以上が埋まっていたので僕たちは入口に近い窓側の席に着いた。窓の外なんかタイル通りしか見えないけどね。向かいのビルの2階でバーらしき看板を掲げている店はカーテンがしまっている。僕たちの席は周りから少しだけ孤立したように隅っこ、というよりは全てのテーブル同士、間隔にゆとりがあるようだ。



「ほんとに好きな物食べてくださいね!遠慮なんてせず」

「ありがとうございます」


 いいえ、経費ですから!


 遠慮されるのは好きじゃない。好きな物食やぁいいんだよ。といっても、無理やり付き合わせてしまったようなこの状況じゃ難しいとは思う。


 また腹の音が聞こえて奥松さんは恥じらった。少しはにかんだのを見て、心を開いてくれつつあることを期待した。僕も気が付けばお腹ペコペコだった。存分に鳴くがいい腹の虫たちよ。





 ***** ***** ***** ***





 奥松さんはオムライスとハンバーグのセットを注文した。僕はパスタとエビフライのセットと迷ったけれど、結局彼と同じセットにした。それとポテトフライとピザを追加する。唐揚げがあれば追加したかったのだがイタリアンレストランのメニューには見当たらなかった。


 確認してみたらエビフライは単品でもできるというからお願いした。しかもテイクアウトOKなんだって。買って帰ろうかな。それにしてもオムライスってイタリアンなのだろうか。エビフライも。存外に考えさせられる店だ。



「括りでジャンル分けしているのかもしれません。この場合“ランチ”であるとか」

「ははあ―――!」



 奥松さんの言葉が持つ不思議な説得力に僕は平伏した。


 つくしんぼのようなフォルムからも彼は食が細そうに見えるが、見掛け倒しの可能性もある。痩せていてもたくさん食べる人はいるから見た目だけで判断することはできない。だから注文したのは、もしも彼が本当に食が細かった場合でも僕一人で食べきれる自信のある分量だった。

 

 それに気が大きくなっている。だって、経費で落とします!なんて見栄を張ったのが恥ずかしいくらい何もかも安いんだもの。



「小銭なら少しあるんです。でも今日はいつも来る牛乳屋さんが来なくて」

「そういえば見かけませんでしたね」



 最初に来た日に僕も珈琲牛乳を買った。あの時はとても動揺していたのを思い出した。何だったんだろう、あの未来人たち。


 奥松さんのネームホルダーはテーブルの上に置かれている。彼はポケットをごそごそ探っていた。ほんとに小銭とか出さなくて大丈夫だからね?お金のことは気にしないで―――――と口から出そうになったが、彼が黒い財布から出してきたのは僕の想像していた物とは違っていた。




 ***** ***** ***** ***



 

「これは私の名刺です」

「えっ!いいんですか?」

「ご確認ください」



 警戒されていると思っていたから、少しでも心を開いてくれたのならばとても嬉しい。美味しくご飯を食べてくれれば僕は本当にそれでいいと思っていた。


 白く華奢な手から名刺を受け取る。彼が僕の名刺をテーブルの角近くに置いてくれていることに気が付いた。



「拝見させていただきます」

「よろしくお願い致します」



 顎を引くことでリミッター解除したみたいに彼の肩が角度を落とす。随分と緊張させてしまっていたのだと思うと申し訳ない気持ちになった。そりゃそうだ。自分で垢抜けているとはこれっぽっちも思っていないが、どんなに地味で野暮ったく装ってもこの時代ではチャラい部類に入ることだろう。誰が見ても僕は怪しいんだと思う。



 では改めて。

 ありがたく拝見させていただきます。






 名刺には僕たちがさっきまでいた市役所の名前と住所が記載されている。疑ってはいなかったが職員さんだというのは本当らしかった。



   総務統括部 総務課 法務係 主務主任

    奥松 由樹 Yoshiki Okumatsu



 所属と名前と、続いて電話番号とFAX番号と、いや待てよ。



 待てって。



 何てもん載せてんのよ、この人。

 ダメだってば。

 


・・・・・・・・・・こんなの絶対ありえねえだろ。




 名刺越しに奥松さんと目が合った。彼の向こうにある窓からは空が見えないな、なんて一瞬だけ考える。あの壁紙の青が視界に入ることを脳が想定していたのかもしれない。動揺している。落ち着け、ぼんやりしろよ僕。




 だって、ありえないよ?

 

 嘘ですよね?

 僕はどうしても自分の目を信用することができない。




 メールアドレスとホームページのURLって、あんた。
















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 “あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。


 ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。



 




 




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