古希の帰還 ~再び、市役所でのこと~
少し前のことになる。寺谷くんから最初のハガキが届いてすぐの頃まで遡って話したいと思う。お付き合いいただければ嬉しいです。
8月末、僕は焦りを感じていた。
急いで爆破予告のあった市役所を訪れなければならない。今まで生きていた時代での「四季という感覚」をあてにしてはならなかったと思い知ったのだ。秋とはもっと遅くやってくるものだと、その頃には免許も取得しているのだとのんびり構えていた。だがしかし季節が巡るのは、僕が思っているよりも
だからその日、僕は焦燥感を抱えながら市役所へ向かった。前回庁舎の下見に来たのが一度目だ。今回は依頼者に会うために赴いた。が、到着が閉庁時間の間際になってしまった為やはり下見だけして旅館へ帰る結果になった。出立が遅すぎたのだと膝をつく思いだった。だって朝倉さん乗車するって言うし。それはどうにか午前中にしてもらった。
そんな中、明日も依頼人に会えなかったらどうしようという不安も湧いて更に気が焦る。三度目の今日こそはと息巻いて。正確には依頼者と詳しい話をする前段階で、アポを取りに来た。
アポは重要だ。いきなり現れて「未来のあなたから頼まれてきました」なんて話しても信じてもらえるはずが無い。信じてくれたら有難いが、そんな人がいたら結構ヤバい人だ。
今回の依頼者についてはそれほど心配していなかった。それは未来で会った彼に悪い印象が一つもなかったからだが、もしかしたら“年を取って丸くなった”という可能性はあるかもしれない。
当該依頼者は小谷次長といって市の職員で、大変に物腰の柔らかい50代後半の男性だった。この時代では入庁4年目の20代だから実年齢の僕と同世代だ。
「当時は市民生活課にいたから、呼び出すのは容易かと思いますよ」
未来の彼が言った通り、市民を装うことで取次を頼むところまでは突破できた。職員を装うわけにはいかないので、彼が給与課や会計執務室の勤務であったら接触は難しかったと思われる。余計な話だが情報電算にあたるような課はいまのところ見受けられない。
午前中に着いたものの、市民生活課を何度覗いても証明写真に写る男性は見当たらなかった。写真は勿論コピーだ。そしてカラー写真だ。「カラーなんだ?」と思ったなんて言えなかった。これは本人からもらったものだった。
同課の窓口で年配の女性に声をかけ、呼んでもらえないかと伺いを立てるも若き小谷氏は午前中いっぱい会議で不在にしているらしい。昼当番とやらで外出するが午後2時を過ぎれば会えるということだった。僕は2時を過ぎたら改めて伺うことを伝言として頼んだ。それが11時半を少し過ぎた頃。女性は紺色の上っ張りとアームバンドを着用していた。会社で取り扱いのある商品だったから存在は知っていたが、実装している人を見るのは初めてだった、アームバンド。
僕は庁舎内をうろつくことにして最上階まで階段で上がってみた。さすがに息が切れそうになるし、足も疲れ切っていて運動不足を感じた。最上階—――とされている―――6階には食堂があるらしく、人が集まっているのが見える。まだ開店はしていないようだが食券の券売機に並び始めているようだ。
人混みに紛れ込んでショーケースを覗くとラーメンやカレーの食品サンプルが飾られている。品数は多くなく、スパゲティはナポリタンだけみたい。人気爆発なんだって、本当に鉄板に載って出てくるのかな。日替わり定食は野菜炒めか。眺めているうちに息が整ってくる。
お昼休みの後半にでもなって空いてからなら来てみてもいいかもしれない。旅館で朝ごはんをガッツリ食べてきたので今はそれほど空腹を感じてはいなかった。今度は一階ずつ下りてフロアを歩いてみる。表札みたいなものが掲げられているけれど職務内容が想像のつかない課名が多い。二階を一回りして廃棄物なんちゃら課の表札を見たのを最後に、階段を下り始めた時チャイムが聞こえた。
市民生活課を遠目に覗いてみると小谷さんの姿が見えた。先ほど伝言を託した女性から話しかけられているようだ。よかった。ホッとしたらお腹が空いてきた気がする。今はどの店に行っても混んでいるだろうから、とりあえず外に出てから身の振舞い方を考えよう。まずは喫煙所だ。そう思って正面玄関を出ようとした時だ。
玄関前の二つ並んだベンチに座る男性に目が留まった。随分と長いこと、それこそ根を張っているかのような佇まいだ。
・・・実際その通りなのだと思う。
実は今朝も見かけていて、その際に昨日も見た気がしたのだ。平穏な風景の一部として受け止めながら、彼からはなんとなく違ったオーラを感じていた。何が気になったのか理由は自分でも解らない。
白シャツに黒パンツ、ありきたりな社会人の服装だ。この時代では猶更そうだろう。ネクタイをしていないのは昼休みだからだろうか。朝は、昨日はしていただろうか。ネームホルダーを首からぶら下げているようだから休憩中の職員さんなのだろうと最初は気にも留めていなかった。項垂れて肩を落としている姿から中野にあるボクサーの等身大人形を連想したくらいで。
ここからは表情が窺えないがスマホや財布を紛失したかのような落胆ぶりだ。探しても見つからなかったような、何とも言えない悲壮感や絶望感の類を放っている。ように僕には見えただけなのだが、それが心の何処かに引っかかっていたのかもしれない。声をかけてみようか。
「なんとかしなければ」とまでは考えていなかった。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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