第8話

「……御愁傷様。」



無表情でクールな雰囲気の男は、黒髪ベリーショート、アーモンド型の目、血色の良い薄い唇で興味が無さそうに手を合わせる。



俺からは、俺を担ぐ女の顔は見えない。

御愁傷様は、俺に向けられた言葉。

その言葉に涙が零れる。

こんな女に負けたくねぇし、情け無さすぎて穴があったら埋まりたい。

泣くのなんか惨めすぎるが、これは生理的な涙。

止めたいのに止まってくれない。

こんなの、拉致じゃねぇか!犯罪だ!



第一、この女何者なんだよ。

見た目と低く発せられる声が合っていない。

降ろしてもらうことを諦め、コイツらの話を聞いていると辿り着かなそうにしか感じない。

ああ、早く下ろしてほしい。

階段を登って何回も角を曲がると、理事長室の看板が見えてきた。



『も、もう……下ろせよ。』



「はいはい。乗り心地は如何でした?」



女から、距離を取って睨み付ける。



『てめぇが女じゃねぇことだけは分かった。』



それだけ言うと、走り出した。

こんな不名誉な格好悪いことはない。

人生の汚点だ。女に担ぎ上げられたなんて。



角を曲がると、ドンッと壁にぶつかって尻餅をつく。



「おいおい、英依。あぶねぇだろ?」



壁かと思ったら、それは人間でしかもよく知る声が頭上から降り注ぐ。



『え…ああ、カズごめん。』



「いいよ、それよりも……なんで走ってたんだ?」



伸ばしてくれた和巳の手を掴み、持ち上げられる。

俺の幼馴染みで親友の花崎和巳はなざき かずみ

喧嘩も強くて、俺が絡まれて一人では手に負えないときに助けてくれる頼りになる兄貴みたいな奴だ。



『いや、それは……何でもない。』



「また襲われかけたのか?はーなちゃん。」



『ち、ちげぇよ!何でもないって。はなちゃんって呼ぶな!』



「はいはい。それで?なんかあったんだろ。」



なんで分かるんだろ。

顔に出てるのだろうか。



『……ちょっと女に絡まれただけ。』



「逃げたんだろ?」



『……ま、まあ?逃げたと言うか解放されたと言うか……。』



「んだそれ。」



『まず、女というより怪力……ゴリラ?』



「ゴリラ?人間じゃねぇじゃん。」



腹を抱えて笑う和巳に、そこまで笑うほどのことは言っていない気がする。

和巳が笑いのツボが可笑しいのも浅いのも、周知の事実。

でも、さっきの女の嗤うよりも和巳の笑顔の方が安心する。



「何処で会ったの?俺も見てみたい。」



『……それは、やめた方が良い。』

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