第4話

あれから私たちも話し合い、新天地ではスイッチを入れないと結論が出た。

周りがお嬢様お坊ちゃんではないのなら、スイッチはいらないのではないか。

しかし、本来の口調も外ではやめた方が良いと言う榎木のアドバイスは取り入れた。



「だるい。帰りたい。」



『同感。』



「もうっ、二人はいつもそうなんだから。学校着くよ。」



それ以上言うな、と目配せされると、私も夏樹も口をつぐむ。

黙って目の前の学校と思われる建造物を眺めて、私たちは唖然とした。



「こ、ここ?」



これが、学校……?と目を見張る光景。

カラースプレーで落書きされまくった外壁。

何を書いてあるのかも読めない汚い字で何色も何色も、塗り重ねられていた。

ゴミが散らばって、掃除をしたことがないんじゃないかと疑いたくなる光景。



「『あり得ねぇ。』」



ただただ、立ち尽くした。

呆れを抱いたのは最初だけ、落胆なんてしない。

寧ろ、これからが楽しみで仕方がない。






──この日、何かが大きく変わる予感がした。





臆することも恐れることもない。

ここが、これから私たちが過ごす学校。

最初の一歩を踏み出そうとした私たちに、近づく足音。



「……マジかよ、最悪。…おい!誰だ、てめぇら。」



声がした方を振り返ると、そこには可愛らしい女の子。

私と殆ど変わりない身長で、濡鳥色の触り心地が滑らかそうな見るからに柔らかい短髪。

小さくて薄い唇に、大きな目は不審者を見るように細められている。

全力で威嚇してくる子猫のようだった。



『……かっわい。』



つい漏れてしまった本音。

これが女の子に火をつけてしまった。



「今、可愛いって言っただろ!俺は男だっ!可愛くねぇ!」



その場で地団駄を踏み、今にも私に殴りかかってきそうな程睨んでくる。

おーおーおー、なんだコイツ。

少し苛ついて、にっこりと笑顔を崩さずに近づく。

本当にコイツは、男なのか?

こんな可愛い男がいて良いのだろうか、神よ。



「っ、く…来るなっ!」



あれれ、もしかして……この子。



「それ以上…ち、近付いてみろ!?女だろうと、殴るからなっ!」



威勢だけはいいな。

所詮口だけ、それに……プルプルと震えて顔を青白くさせているのが、可愛い。

バンビじゃん。

生まれたての小鹿じゃん。

にやけそうになる顔をグッと堪えて、足を止める。



『驚かせてごめん。君は、ここの学校の生徒だよね?』

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