第1章
悪魔と子羊
第1話
《一樹side》
『あー、だりぃな……。』
春が終わり、桜が散り終えて葉を身に纏う季節。
溜め息と共に出た言葉を溢し、欠伸を噛み殺すと首の関節をボキッと鳴らした。
毎日毎日、高いキーの可愛らしい声を出してやりたくもない笑顔を作らなきゃならないんだ。
今更そのことを後悔しても、妹たちと決めたルールを一人だけ破ることは出来ない。
私の頭の中は、舞う桜を楽しむよりも鉛のように重い体を柔らかなベッドに預けたらどれ程気持ちが良いか、と言うことしか考えていない。
「一樹お姉様、お疲れですか?」
隣の亜樹が、心配そうに私の顔を覗き込む。
亜樹だけは素でこれができるから凄く感心はしている。
「寝不足はいけませんよ。また、一樹お姉様は、パソコンを使ってお勉強なさっていたんですか?」
夏樹は微笑みながら私に首を傾げる。
しかし、その笑顔が“ニヤニヤ”を我慢しているのはバレてる。
お勉強なんてしていないことを知っているだろう。
だって、ゲーム好きなんだよ。悪いか。
睡魔が襲い掛かってきて再び欠伸を噛み殺し、小さく溜め息を吐き出す。
退屈な日々の繰り返しで、また弄ぶ相手がほしい。
叶うなら、泣き顔が凄く可愛い奴が良い。
家族が言うには、私は“鬼畜”らしい。
物心ついた時には、人の泣き顔が一番好きだった。
年を重ねるごとに、それは“泣き顔じゃないと興奮しない”になった。
「一樹お姉様、また“お友達”をお探しですか?」
『いつも探しているわ。』
私の溜め息の意味を察し、じとっとした目を向けてくる亜紀。
その顔には、「遊ぶだけ遊んで、飽きたら捨てるからだ」と書いてある。
この学校だと、お嬢様お坊ちゃんしかいないから、そうそう巡り会えないのだ。
私たちがこんな風に“淑やかな女”をやっているのも、父さんの仕事が上手くいくようにだ。
相手を選んで“遊ばないと”家に迷惑をかける上に、後々面倒だからと自重しているわけだ。
家族は好きだし、何不自由ない平穏で憂鬱で退屈な日常にも慣れている。
でも、何かが足りないと溜め息が止まらないのだった。
父さんの、あの一言があるまでは──…。
「日本に行く。」
全ての始まりは、いつもと変わらない朝だった。
一つだけ違うとするなら、朝の父さんのこの一言。
そして続け様に爆弾を落としていく。
「てなわけで、転校な。」
横に座る妹たちも、各々手に持っていたものを同時に落とした。
暫しの停止と、直後の絶叫に目の前に座る父さんが耳を塞ぐ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます