第265話
兄の皐月(サツキ)兄さんは、世間でいう後継ぎ放棄をしたのだ。
父や母は兄を“クズ”だと嘆いていたが、俺の『たった一人』の血縁者。
俺はたとえ世間で酷い事を言われていようとも、兄を尊敬していた。
ただ笑っていればいいと思っている俺には、そんな自由を求める事なんてできっこないから。
大きな理由はそれだが、人となりにしても兄は凄い人だった。
人を惹きつける能力がある兄には、きっと後継ぎにはふさわしい人間だったんだろう。
父はその能力を買っていた。
しかし、兄は父の期待には応えずにただ自分の自由のために飛び立った。
でも、それが兄にはお似合いだった。
だって、こんな所に閉じこまっていていい人じゃないから。
俺に後継ぎを必然的にさせてしまった事に後悔をしていたのだが、俺は兄を責めてなんていない。
兄の為にそれが出来るのなら、俺は何だってするだろう。
俺の『たった一人』の尊敬する人だから。
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