第561話
あぁ、昨日は本当に気を張った1日だったな。
家に帰ってから一気に力が抜けてソファーに倒れ込んだほどだ。
自分たちが作ったスイーツは無事に成功したと思う。
だが、プロの意見を見るまでは心穏やかとは言えないだろう。
ダイニングテーブルに置かれたアンケートの束たち。
それを、じっと見続ける。
「凛さぁ、それ辛くない?もう20分くらいはずっと見てるけど。いい加減見たら?そんなに見ても内容は変わらないよ」
お父さんにそう言われて、恐る恐る手を伸ばす。
分かっている。
どんなに見続けていても内容は何も変わらないくらい。
大事なのは心だ。
心の準備はしっかり整えておかないと、衝撃的なことが書かれていた場合、心に大ダメージをくらうかもしれない。
「俺が読み上げてあげようか?」
「意地悪だ。悪意を感じる」
「悪意じゃないよ。親切心で言ってあげているのに」
「お母さんならそんなことしない」
「麻矢はしないだろうねぇ。俺はする。早く見て楽になりたくない?ずっと、ここでモジモジしてる時間が勿体無いっていうかさ」
確かにそうだけど。
立ち直れない衝撃が襲った場合のことを考えてから見たほうがいいと思って。
まずは、1枚目を見る。
「凛、細目で見てどうするの?しっかり目を開けて見なさい。んじゃ、俺も見ようかな」
お父さんは紙束から1枚だけ引き抜き内容を確認する。
だから、悪意を感じるって言ってるじゃん。
「へ〜ぇ、真面な意見だね。夢見ガチな学生たちにグサグサ刺さる意見だ」
「お父さん、仕事部屋に行って」
「邪魔ってこと?そんな冷たいことを言うようになるなんて………………凛も成長したなぁ」
うんうん、と頷くと2枚目を手に取った。
嫌だと言ったのに、全くどういうつもりだ。
えっと………………
自分の手にある紙を読み始める。
【定番なプリンを見つめ直す良い機会だが、販売を考えた場合は飽きが来ない工夫も考える必要がある】
プリンって安価で食べられるっていうイメージなんだよね。
手に取りやすいっていうか。
同じ物を何回も購入すれば味に飽きがくるものだ。
だが、人気商品はずっと残っている。
つまり、そういうものをもっと考えろってことだろう。
2枚目、3枚目と確認していくと、どれも最終的には足りないと書かれていた。
まぁ、あれで完成品扱いされても困る。
「あっ、凛。ちょっとコレ見てよ」
お父さんから差し出された紙を見る。
指差しされたところを見ると『見に来てください』と書かれていた。
見に来て?
頭の中がハテナマークだらけだ。
どこに見に来てと?
「ご招待されちゃったね。行ってみたら?連絡先も書いてあるし。遠慮しないで行くべきだよ」
「ご招待?お店に?」
「そうだね。就職活動の時期だからちょうど良いね。光のお店だけじゃなくて、他のお店も見たほうがいい」
「このお店、知ってるの?」
「知ってる。癖が強い女性の人がいるお菓子屋さん」
………………。
私が聞いているのはそういうことではない。
だが、お父さんの知り合いだと分かった。
だから、私に勧めたのだろう。
「これって、お父さんが仕組んだことじゃないよね?」
「ん〜、仕組んだことではないよ。たまたま、知り合いも招待されたから、娘が出るからねって伝えた。裏の付き合いじゃなくて、社会人になってからの付き合いだよ。仕事で何度か一緒にやったことがある。俺は、別に娘の評価を上げてねって言ってないよ。あの人、頼んでも普通に断るだろうし。これを見れば分かるでしょ?見事に低評価。程よく評価して程よく指摘すればいいのに、彼女はそれをしなかった。とても熱意がある人なんだ。チョコが溶けそうなくらい。俺にも平気で意見言うし。まぁ、経験豊富だからね。指摘されて、なるほどって思うよ。癖は凄く強いけど。凄く」
………………。
お父さんが、認めている人は少ない。
ただ、苦手な人っぽいな。
「分かった。電話してみる」
そう言うと、お父さんはなぜかびっくりした表情をした。
なぜ、驚く?
自分が言い出したのに?
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