第602話

それぞれの準備が整ったところで光さんは話しを始めた。


その内容には海が聞いてきたものも含まれていた。


ここで話すから詳細は話さなかったのだろう。


当事者である真理亜は聞いているのか聞いてないのかドーナツはパクパクと食べ続けている。



「美味しい?」



「新商品ばかり買ってきたの。凛ちゃんも好きなの食べなよ」



「いいの?」



「いいよ。おすすめはねぇ、このチョコクリームが入っているコレだよ」



真理亜が指差したドーナツはチョコクリームが表面に乗っているものだった。


おすすめしてくれたドーナツを1つ手に取って食べてみる。



「ん、美味しい。中はしっとりなのかと思ったらサクフワなんだね」



「そのサクフワがいいんだよねぇ。チョコクリームも重くないし。ちょうどいい量だと思う。コーヒー飲みたくなるけどね」



確かに、コーヒーが飲みたくなる。



「カフェオレでもいいかも」



「私はミルクたっぷりがいいなぁ。凛ちゃんはブラックじゃないんだ?」



「ブラックでもいいけど。今はカフェオレの気分………………」



いや、真理亜に連れられては駄目だ。


呑気にドーナツを食べている場合ではない。


だが、美味しい。



「凛、相手はミンエイより上手だから、愁に変更しているから」



「はい」



真理亜に興味を持った男は喜一を崇拝しているところの男だったらしい。


そうなると、柚月とも繋がりがある裏ってことだ。



「喜一がいなくなっても、組織は崩れないまま維持しているってことですか?」



「前より活気はないが、まだ崩れていないだけど。直接的な関わりがあったというより下請けの下請けって感じだな。やり方がゲスいというか、綺麗に片付けるタイプではない。他と揉めてもいる組織だ。男はその組織の幹部候補で、立場は中の上ってところだな。年齢は32歳、家族はなし」



ちょっと年上の人だったのか。


奏多は、喜一関連でその人に会って真理亜のことを話してしまったのか?


アホとしか言えない。


仕事の話のはずで、なぜ表のことを話したのか………………



「その男をどうにかするまで、真理亜は愁さんと一緒にいるってことですね?」



「まぁ、そうなるが。いつも一緒にいるわけじゃない。雪は前からずっといたから怪しまれないだろう。それに、アイツに離れろと言っても離れないだろ」



確かに、雪は離れないだろう。



「その男に監視を付けている。動きがあったらすぐに動けるようにしている」



その男だけ処理すれば良い、というわけではないのだろう。


幹部候補の立場なら尚更だ。


裏同士の交戦なんてなったら面倒だし。



「どうやってその男を諦めさせるんですか?」



いい例だと風間になるけど。


あれは、またちょっと違った感じだし。



「海の話だと邪魔なんだと。その組織が」



ん?


私は頭を傾けて考える。


海は柚月のところに行って、邪魔な組織だと聞いたってことだよね?


邪魔だということは………………



「つまり、その組織を消そうとしていたってことですか?だから、奏多は近寄ったと?」



私がそう言うと光さんは困った表情をした。


否定はしないから、そういうことなのだろう。


また、柚月は上手に動かそうとしているのか。


ハッキリ言わないまま、片付けさせようって思っているのかもしれない。


次第に私の眉間が寄っているのが分かる。



「あ〜、凛なら気づいているらしいが、俺たちは柚月の魂胆に乗るつもりはないぞ。それやったら他の奴らまでくるかもしれないだろ?」



では、どうすると?


柚月側は動くつもりがないなら、誰かが動くしかない。



「光さんは他の手でなんとかするつもりですか?」



「俺たちは情報収集が得意だ。情報を錯乱させることも出来る。だから、ズレを生じさせる。例えば、あっちが掴んでいる情報とは別の行動で動いてもらう。自然にな」



「その日の日程はワザと流すってことですか?相手を振り回すと?」



「今でも振り回しているらしい」



ん?


それはどういうこと?



「毎回、同じ店に行くわけじゃない。その日の気分で店を変更している。急に方向転換もするらしいからな。それをもっと動かして、その過程で会う人を増やしていく」



雪って凄いのでは?


あっちへこっちへとしっかり着いてきていると思う。


その方法だと直接な接触なしで混乱させることはできる。


でも、それだけでは解決しないだろう。


時間稼ぎにはなるけど。

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