第591話
柚月は疲れ切った感じで座っているが、ここにいるということは断ったということだよね?
「奏多さんが身代わりになったの?いち君、強めに出れなかったんだね。いつもなら、きっぱり言ってたよ」
「今回は恩がある人のお店だし。口コミに何か書かれたら嫌だし」
「いち君も、そう考えるようになったんだね。表の仕事も始めたから?」
「雪は俺のことなんだと思っているわけ?常識がない人って思っているわけ?」
「強引に物事を進めること多いから。優しく時間を掛けてやること少ないもん」
「………………」
雪が言ったことが図星だったのか黙ってしまった。
付き合いが長いというか、よく見ているから言えることだろう。
疲れている人は置いて、ファミレスに行かなくきゃ。
24時間営業しているわけじゃないから早く行かないと。
「いち君はここに残る?奏多さんがいないなら、迎えを呼んだんでしょ?」
「呼んでないよ。さっきまでタクシーに女性たちを押し込めていたからね」
「えっ?呼んでないの?今から呼ぶんでしょ?」
「呼ぶけどすぐは来ないよ。俺の送り迎えは奏多が基本的にしているからね。他は仕事で外に出ているから。仕事が終わり次第来る感じかな。3人共、お疲れ様。椎名さんにお願いして正解だったな。迎えは大丈夫?送って行こうか?」
柚月は立ち上がりグイッと背伸びをする。
「お気持ちだけで大丈夫です!!」
真理亜は私の手を握り引っ張りながら歩く。
柚月の目の前を通り過ぎようとしたとき空いている手を掴まれた。
「そんなに焦ってどこに行くの?」
「アッ!離せ!この野郎!!」
「白井さんは言葉遣いが悪くなったね。前はもっと丁寧だったよ。イライラしているからって当たり散らしちゃダメじゃん」
「柚月さんこそ、急に良い人になるなんて!頭でも打ったんじゃない?あれだけキャーキャー言われているんだから、連れて行かれちゃえば良かったのに!キャーキャー言われてなかった人が行っちゃうなんて!」
左右から腕を引っ張られて正直痛い。
「ちょッ、2人共!そんなに引っ張ったら腕が取れちゃうよ!」
私が慌てなきゃいけないことだが、なぜか雪が慌てている。
腕は取れないよ。
意外と関節は頑丈だから。
でも、痛みは感じるからね。
引っ張れているなら、私からも引っ張るか。
ググッと腕に力を入れて腕を体の中心に引く。
「凛ちゃんは、私と一緒に行くの〜。柚月さんは早く迎えを呼んで、早く帰って下さい。裏の仕事たくさんあるんですよね?それを片付けるのが先だと思いますけどぉ」
「これからする仕事はないよ。今日は仕事を入れてないからね。お店の手伝いをするのに裏の仕事なんて入れないでしょ。普通に考えて」
「ンギギーッ!!」
「白井さんって、本当に変わったよねぇ。風間はコレでもいいらしいけど」
「コレって何!?なんか酷くない!?」
私を挟んで騒がないで欲しい。
更に力を入れると真理亜が私側に倒れてきた。
あっ、やり過ぎた。
支えようとしたが、私の両手は使えない状況だ。
このままだと地面に頭をぶつけてしまう。
そんな状況なのに真理亜は私の手を離さなかった。
「真理亜!」
真理亜をギリギリ受け止めたのは雪だった。
細い腕なのにしっかり受け止めており安定感がある。
「び、びっくりしたーッ!」
真理亜は目を大きく見開き、手を心臓に当てていた。
「もう!力がそんなに強くないんだからダメだよ。この2人相手に引っ張るなんて危ないからね。ほら、早くファミレスに行こう?」
「まだドキドキしてる」
真理亜は体を起こしたが、私の手は今でも握ったままだ。
最後まで手を離すつもりはないらしい。
「柚月。私たちは行くところあるから手を離して」
「そっか。なら行こうか」
柚月はそう言って私の手を握ったまま歩き出した。
道連れのように私と真理亜も歩き出す。
「なぜ、柚月さんが一緒に行くので?」
「お腹空いたねぇ。俺が奢ってあげるよ。白井さんの食べたい物食べていいよ」
「………………くそッ、コイツを破産させるほどの胃袋はない!」
「ファミレスじゃ無理だね。確実に」
えっ?
結局、一緒に行くの?
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