第590話

本格的に片付けをするため客席に戻ると真理亜と雪がテーブルや椅子の片付けをしていた。


食器類は大体片付いたらしい。


………………。


あれ?


店内を見渡すが柚月と奏多の姿がない。


帰った?………………わけではないよね。



「ねぇ?あの2人はどこに消えたの?」



「いち君と奏多さん?外にいるよ。たぶん………………戻って来ると思う。興味無さそうだったし。戻って来なかったら先に帰っていいと思うよ」



たぶん、ということは………………


戻って来ない可能性があるってこと?


片付けを私たちにさせて、あの2人は外でお話し中ってことだよね?


お店のカーテンで外の様子は見れない。



「柚月さんはねぇ、数人のグループに連れて行かれたんだよ。それを、追いかけた感じ?早く片付けてファミレスに行こうよ!」



ご飯に関することになると真理亜の動きは素早くなるのね。


無駄がない動きだ。



「そうだね。あの2人がいなくても困らないか。看板は?中に入れたの?」



「あっ!まだ入れてないや!」



「私がやるから。真理亜はそのままやってて」



「はーい」



お客さんが入って来ちゃうからクローズという看板も掛けなきゃね。


ドアを開けて右側に置いてある折りたたみ式の看板を手に持つ。


金具を外してパタンと閉じる。



「椎名さん、なんで無視するわけ?」



折りたたみ式の看板ってよく見かけるけど、意外とこれ重いんだよね。



「本当に無視?」



折りたたみ看板を店内に入れてオープン壁掛け看板をクローズ側にひっくり返す。



「冷たい。困っているのに助けてくれないんだね?」



あとはドアに鍵を掛ければ、ここは終わりだ………………



「お姉さんたち、もう戻っていいかな?仕事があるからさ」



「ん〜、嫌!!」



「嫌って言われてもなぁ。お姉さんたち、相当飲んだよね?タクシー呼んだから、それに乗って帰りなよ」



「一緒に行こうよ!これからカラオケに行くんだよね」



「ごめんね。行けない」



「連絡先交換して」



「それも無理かな」



鍵を掛けていいだろうか?


店の前で何やら話し込んでいるが、このまま帰っていいかな。


タクシー呼んだって言っていたし大丈夫だろう。



「じゃぁ、カラオケはやめて近くのお店に行こうよ。近いからいいでしょ?バイトが終わるまで私たち待つから」



「バイトが終わったあとは用事があるんだ」



ドアを開けて店内に入りパタンとドアを閉めた。


すると、外から『えっ!?ちょっ、うそッ!?』という声が聞こえた。


………………。


絶対、面倒だと思う。


女子3人組で、強そうな感じだった。


そこに突っ込めというのか?


喧嘩腰になりそうだから、自分で解決してほしいところだ。



「凛ちゃん。何やってるの?ドアに耳当てて。何か聞こえるの?」



「真理亜も聞いてみる?」



手招きをしてドアを指差す。


真理亜はゆっくりドアに耳を当てた。



「ふむふむ、なるほどぉ。こりゃ、イケイケ女子ですな。諦めたくないって感じが全面に出てるよ」



「そうみたい。それが分かっているのに口を出したいって思う?」



「思わないよ。絶対、邪魔だって感じで言われるでしょ?ギャーギャーお店の前で言われたくないよねぇ………………で?片付け終わったんだけど、帰ろうよ」



「そうね」



ドアの鍵を掛けてバックヤードに戻る。



「みんなお疲れ様。今日は凄く助かったよ。これ、お給料とチーズケーキ」



店主から渡されたのは封筒とケーキの箱だ。



「ありがとうございます。柚月は外にいますので」



「あぁ、そうらしいねぇ。大丈夫だよ。気をつけて帰ってね」



「はい」



柚月のことは気づいているらしい。


なら、このまま帰っていいはず。


面倒なことは店主に任せて帰ろう。


荷物を持って裏口から外に出る。



「凛ちゃん!なんか、誰かいる!」



「えっ?」



裏口は暗くて先が見えにくいが、よく見ると座り込んでいる人影があった。


こんなところに座り込んでいるなんて………………


不審者か?



「確認するからここにいて………………いち君だよ!大丈夫!不審者じゃないから」



雪がジリジリと近づき確認してくれた。



「雪も俺を見捨てたんだね。友達なのに酷くない?」



「だって、奏多さんが行ったから大丈夫かなって思ったんだよ」



「奏多は使えないよ。アイツ、戻って来ない」



………………。


どうやら、柚月ではなく奏多が持ち帰りされたらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る