第589話
「あのカッコいい人って、ここのお店にいたっけ?とか聞かれたんだけど」
どうやら、注文ではなく柚月のことを聞くために呼んだらしい。
真理亜に聞いてもその答えは得られないだろうなぁ。
困ったからこっちに戻って来たみたいだし。
「本人に行ってもらえばいいよ。真理亜が説明したところで、本人を呼んでとか言いそうじゃない?というか言うでしょ」
「そっか!そうだよね!」
柚月を呼ばないと。
でも、行ってくれるだろうか?
………………。
「凛ちゃん?どうかしたの?」
「いや、本人は奥へ逃げたから。来るかな?って思っただけ」
「え〜、自分で処理してくれないと困るし」
処理って………………言い方。
まぁ、声は掛けるか。
「ちょっと待ってて」
厨房に入るとお皿を洗っている柚月がいた。
仕事はしていたらしい。
休憩でもしているのかと思った。
「柚月、あなたに指名が入った」
「椎名さん、その言い方はおかしくない?ホストじゃないんだからさ。指名って何?」
「注文だと思って真理亜に行ってもらったんだけど、あなたのことを聞かれたらしいの。だから、行って」
「………………それってさ?1回目来てくれたら、2回目も来てくれるよねってならない?」
「それは、柚月次第でしょ?1回目の対応が良いなら、2回目も大丈夫ってなるよ」
「うん、ここのお店はそういうお店じゃないって。帰ったことにしてくれない?」
「ダメでしょ。早く行って来てよ」
面倒だから行かないとか言わないで。
お客さんが呼んでいるんだし。
それに、今回だけここで働いているって言えばいいだけだ。
お店の評判にも繋がるから対応しろよ。
「しょうがないな」
柚月は蛇口を捻り水を止めた。
どうやら行ってくれるらしい。
私は先に戻り真理亜にこのことを伝えた。
すると、なぜか奏多が驚いた。
「本当に来るの?マジで?」
「そうだけど」
「やっぱ、相手か?だよねぇ。そうとしか考えられない。あっ、壱夜さん。行くんですねぇ?」
奏多はニコニコ顔で言う。
「なんかムカつく。何がそんなに面白いわけ?」
柚月もニコニコ顔だが、言ってる内容と合っていない。
良いから早く行って来いよ。
「あっ、私もお皿を下げてくるね!」
真理亜は逃げるように客席に行く。
私もそれに習ってここから離れた。
グラスや大皿や小皿などを集めて厨房の作業台に置いて、また客席へと戻る。
ある程度集まったところで厨房に入りお皿を洗う。
「凛ちゃん。お客さん帰り出したよ〜」
「そう、分かった」
ここから次のお店に行く人もいるだろうし、そろそろお開きなのだろう。
「柚月さん、案の定って感じだよ」
「えっ?」
案の定って何?
何かあったの?
「眉間に皺寄ってるよ」
「何が案の定なの?」
「ホスト?的な?」
「………………ほっときな。自分でなんとかするでしょ?そろそろお開きなんでしょ?」
「お持ち帰りされちゃったり、しちゃったり」
お開きだからお持ち帰りって?
まぁ、それは本人次第でしょ?
「真理亜、楽しそうに話すのね」
「見てて楽しいよ。絶対、イライラしているんだろうなって。年上のお姉さんと年上のお兄さんに囲まれているわけだし」
あぁ、確かに私たちより年上だ。
たぶん、30代じゃないだろうか?
人生経験は私たちより豊富だと思うから良い経験になるのではないだろうか。
「亜紀と違って爆発はしないと思うから大丈夫。それより、お客さんが帰り出したらテーブルに片付けは静かにね。早く帰れって感じにならないように注意して」
ガチャガチャと音を出して片付けていたら早く帰れって言ってるようなものだ。
「了解!終わったらファミレスだよ!」
「分かってる」
真理亜はムフフと面白い声を出しながら出ていく。
余程、楽しみなのだろう。
作業台に置かれる食器が増え始めると、店主さんも一緒に片付けを始めた。
そして、客席から「お客様、全員おかえりになりましたー」と声が聞こえた。
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