第585話
バイト当日。
真理亜と一緒にお店の前まで来た。
いや、もう1人いるか。
真理亜の後ろにいるのは雪だ。
当たり前のように集合場所にいて、当たり前のようにここまで来た。
「ここかぁ。裏口から入るんだっけ?」
「裏口はこっちだよ」
お店の裏側に案内する。
裏口ってゴミなどが置かれている場合が多いが、ここの裏口は綺麗に整頓されておりゴミ箱などは置かれていなかった。
裏口のドアは物置ドアみたいな場合が多いが、ここのドアは普通の玄関ドアだ。
ドアまで綺麗………………
ドアを開けて中に入るとすぐバックヤードだ。
倉庫兼従業員休憩所になっているため、ギュッと物が詰まっている。
「真理亜。これ、エプロンね」
制服というものがなく、エプロンをつけるだけでいいと言われた。
でも、それなりの格好は必要だろうと思い真理亜にはブラウスと黒のスラックスでお願いしていた。
「あっ、お疲れ様。雪、これ」
バックヤードに入って来たのはエプロン姿の柚月だ。
………………。
似合わない。
光さんのエプロン姿より似合わない人っているのね。
「うわぁ、柚月さんのエプロン姿って似合わないよねぇ。凄い違和感ある」
私が思っていたことを真理亜も同じだったらしい。
それを真っ先に声に出して言うとは………………
思ったまま言ってしまったのだろう。
柚月はいつものニコニコ顔だ。
怒っているのか、気にしていないのか分からない。
雪は柚月からエプロンを貰う。
首に掛けるタイプのエプロンなので、首に負担がかかりそうだけど。
「凛ちゃん。後ろの紐やってくれる?」
「いいよ」
真理亜は後ろの紐が結べないのか後ろを向く。
ボタンタイプなら簡単だが、このタイプのエプロンはやりにくいよね。
紐を結んであげると真理亜は私の後ろに回り込み紐を結んでくれた。
「私も真理亜も完璧ね」
「ふふーん」
真理亜はその場でくるりと回る。
髪の毛も縛っており前髪はピンで止めている。
カッチリキッチリ。
私も似たような感じだけど。
「説明するからこっちに来て」
柚月はそう言いながらドアを開ける。
今はお客さんがいる時間だから店主は出て来ないだろう。
柚月の案内でどこに何があるのかを確認していく。
「あとはお酒の作り方かな。ここにお酒の作り方があるから確認しながら読んで」
壁にはお酒の作り方が貼られていた。
これはこのために作ったのかな?
紙質が新しい。
「まぁ、お酒やソフトドリンクは奏多が担当するから大丈夫だと思うけど」
裏方に回すのね………………
きっと裏方も忙しくなるから人数はいたほうがいい。
「椎名さんは、ドリンク大丈夫だよね?奏多が回らない場合は手伝ってくれる?」
「分かった」
一通りの説明を聞いた後は、お店に出ることになった。
日中は数えるほどしか来店しないので焦ることはない。
教えながら出来るからいいと思う。
「みんな、ありがとう。休憩時間になったらチーズケーキを食べてね」
料理の提供が済んだらしい店主が厨房から出て来た。
チーズケーキと聞いた真理亜は目を爛々と輝かせる。
まだ休憩時間じゃないよ。
それに1回も接客してないよ。
「あっ、ご来店だね。よろしくね」
そう言って店主は厨房に戻った。
お店に入って来たのは家族連れのお客さんだ。
夫婦と子供2人の4人家族。
子供は小学生と中学生くらいだろう。
家族だからカウンターよりテーブルに通したほうがいい。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
見たところ4人だが念の為に聞く。
「4人です」
「テーブル席にご案内いたします」
席に案内してからメニューを渡す。
ここからは真理亜に託す。
お水とお手拭きをお客さんのところに持って行く役目だ。
緊張しないのかスムーズに行って笑顔のままお水とお手拭きをテーブルに上に置いて戻ってきた。
………………。
問題はないな。
少し待つとお客さまが手をあげた。
「真理亜」
「うん」
今度は注文を聞きに行くことを頼んだ。
間違えないで注文を聞くことができれば完璧だ。
お客さんが来店する度に、真理亜と雪に担当をお願いして慣れさせる。
そうして本番前の休憩時間がやってきた。
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