第581話
「お店の中、ずっと見ていたから何を見ているのかなって思っていたけど」
「大事なことでしょ?求人情報を見るのも大事だけど、お店の雰囲気もちゃんと見ないとね。凛はそっち系だと思うの」
「そっち系?」
「元々の癖なのかもしれないかもね。求人情報を見てもパッとしないんでしょ?」
お母さんの言うとおりだ。
求人情報を見ても、受けてみたいと思うことは少ない。
他の人は気になったら応募しているらしいけど。
大塚さんも、いくつか応募したらしい。
だが、海から条件をクリアした求人しか応募していない。
「でも、普通は求人情報を見て応募するんだよね?」
「インターンシップってあるでしょ?」
「うん」
「夏休みを利用するの。実際にお店で働いて自分と合っているのか確認するの。私のところにも来るんだよ。奥村さん家もお願いすれば体験させてもらえると思うの。他もあるはずだから探してみたら?」
なるほど、そういう就職活動もあるのか。
数は少ないかもしれないけど、このまま紙のみで探すだけではダメなのだろうと思った。
運転席のドアが開けられお父さんが乗り込んできた。
「40分くらい待つって。順番が来たら電話がくるよ」
「40分?まぁ、そのくらいならいいかな」
お店の中は待ち人でいっぱいだから、順番が来るまで車の中で待つらしい。
というか、お店の外までいるし。
「お父さんはインターンシップやったことある?」
「えっ?急に何?」
「お母さんが、インターンシップはどうか?って」
「ふ〜ん」
お父さんはお母さんを見た。
「凛は紙ベースの求人情報を見てもピンッとこないと思ったの。だから、インターンシップはどうかな?って。奥村さん家も頼めば体験許可してくれそうじゃない?」
「なるほどね。確かに、凛は体験して情報を集める派ではある。でも、少ないと思うよ。俺の時も少なかったなぁ。工場みたいなところが多くてさ。経験値が欲しいから工場でも行ったけどね。いろんなこと体験してみないと表側に居られないと思ったし。とにかく、経験値」
………………。
それを言われると、私も当てはまるのでは?
他の人と比べると圧倒的に経験値が足りない。
スイーツを作る経験値ではなくて、一般的な経験値のことだ。
これは早急に対応しなければならない。
「凛も分かっていると思うけど、接客がめちゃくちゃ苦手だからね。接客重視の仕事はできないと思う。だからって、完全に引っ込む系は嫌でしょ?」
図星だ。
お父さんが言った通りに接客の評価は低評価だ。
自分なりに一生懸命だが、それを評価してくれるのはお客様だ。
笑顔がない声が小さいなど、気になる部分があれば低評価になる。
光さんはあまり言わないけど、短大では先輩方によく言われる。
「うん。私の笑顔は笑顔じゃないらしいよ。口角あげているはずだけど、あげてないらしい」
「経験で鍛えるしかないよ。俺もそうだったからね。で、そのうち分かるようになるよ」
別に接客をメインでやりたいわけではない。
私は作り手になりたいのだ。
だが、世間はそんな簡単ではない。
新人はあれもこれもを経験することになる。
接客もその中の一つだ。
作り手だけなら工場勤めでもいいだろう。
でも、同じのをひたすら作るのは違うのだ。
「あとね、就職先は日本だけじゃないよ。海外に行くなら若いうちに行くべきだから。短大でも支援しているでしょ?行く人いないの?毎年、枠が用意されているはずだけど」
確かに、留学の枠がある。
だが、それを申し込むためには審査をいくつか受けるのだ。
確か、製菓学科にはいなかったな。
申し込んだ人はいたらしいけど、落ちてしまったらしい。
「あるけど、製菓学科にはいないよ」
「いないの?落ちたの?」
「そう。応募数が多かったみたい」
「そっか。落ちたら自力で行くしかないね」
自力で行くって、凄くお金が掛かるよね?
留学する資金を日本で働いて貯めて行くんでしょ?
どのくらい貯蓄すれば行けるのだろうか………………
「凛が海外に行っちゃったら、私も行きたくなっちゃうじゃん」
「えっ?娘のところに?」
「当たり前でしょ。誠也のところに行ってどうするのよ」
「………………」
お父さんは、なんとも言えない表情をした。
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