第582話
今日はアメリカに行くお父さんのお見送りをするため空港まで一緒に来た。
「ちゃんとパスポート持った?スマホは?あっちに到着したら連絡してね。あと、住むところの写メもちょうだい!」
お母さんは子供に言い聞かせるみたいに言った。
ここでパスポートを忘れたって言ったら、どうするのだろうか?
飛行機乗り遅れるよね?
「麻矢も戸締り忘れないでね。あと、凛のお弁当も忘れないで。何かあったらすぐに連絡していいから」
今回は下見だから長期滞在はしない。
それでも心配事は多いらしい。
「凛も、寝坊しないようにちゃんと早めに寝るんだよ。麻矢も仕事で早く出かけちゃうことあるから、その時はバス停まで送れないからね。目覚まし時計も音量上げて」
「うん。大丈夫だよ。そろそろ、行かなきゃダメじゃない?」
「心配だなぁ。なんか、凛が落ち着いているし。麻矢と俺が落ち着いてないし。こんな時は子供より親が不安になるもんだね」
いいから、早く行きなよ。
本当にギリギリだから。
お父さんを送り出したあとは、空港内にあるお土産を物色する。
さっきまで、不安そうな表情をしていたお母さんは今ではニコニコで限定品のチーズケーキを買おうとしている。
これをお父さんが見たらショックだろうなぁ。
「お母さん、お腹空いたからチーズケーキ買ったら何か食べよう」
「もう、そんな時間?え〜、何食べるぅ?」
なぜ、女子高校生風に言うのだ?
何食べると言われても、何があるのか………………
スマホを取り出して検索してみる。
和食、中華、洋食………………
ほぼあるなぁ。
最近食べてないものってなんだっけ?
とんかつはこの前食べたし。
海鮮丼?
「なら、海鮮丼は?」
マグロやサーモンが大量に乗っている写真をお母さんに見せる。
「いいね。さっぱりしていいかも!」
チーズケーキを買ったあとは海鮮丼屋に行く。
ちょうどお昼時のため並んではいたが急いでいないため列に並ぶ。
スマホでメニューを見ていると、画面の上部にメッセージが表示された。
タップすると真理亜からだった。
なんだろうか?
また、どこか美味しいお店でも見つけたのだろうか。
えっと………………
ん?
う〜ん。
どうしてこうなった?
「どうしたの?眉間にシワを寄せているけど、何かあったの?」
どうやら顔に出ていたらしい。
「いや、真理亜が送ってきた内容がちょっと」
雪が一緒にいるのはいつものことだけど、そこに柚月がいるとなるとちょっと違うだろう。
そして、もう1人いる。
風間もそこにいるのだ。
仲良くお昼ご飯を食べているように見えるけど。
「なぁに?」
「真理亜は雪と柚月と風間と一緒にいるらしい。お昼ご飯食べてる」
「へ〜ぇ、同窓会?」
「そんなわけないでしょ」
返信をしようとしたところで、また真理亜が送ってきた。
【なんだか、凛ちゃんに仕事を紹介したいって言ってる】
うん?
私に?
『誰がそんなこと言ってるの?』
【柚月さ〜ん。あとで詳細伝えるって】
『分かった』
柚月からの紹介?
また面倒なことじゃないでしょうね?
柚月から連絡が来たのか帰りの車の中だった。
『椎名さん、ごめんね。ちょっと頼みたいことあるんだ』
珍しく最初から本題に入るらしい。
「何?また面倒なこと?」
『面倒って………………そんなに面倒事お願いしてるかな?』
「自覚ないのヤバいよ」
『酷いなぁ。今回は、普通のお願いだから。椎名さんも行ったことがある場所だよ。以前、3種類チーズケーキを出すお店に連れて行ったことあるんだけど。覚えてる?』
ふむ、確かホテルの料理長だった人がやってるお店だったか?
「覚えているけど」
『その人のお店で少しの期間でいいからアルバイト出来ない?既に、アルバイトしているのは分かっているけど。手伝いを頼んでいた人が急に来られなくなって。ダメかな?ちゃんとお給料出すから』
なんだか、焦っているらしい。
そんなに緊急なのか。
「何をするの?」
『注文を聞いて厨房に伝える。料理ができたら運ぶんだよ』
光さんのお店でやっていることを大体同じか。
まぁ、そのくらいならいいか。
『まかない出るよ。失敗しちゃったスイーツも食べられるよ』
「行く」
それは、興味がある。
詳細はお店で話すと言われたため、都合を合わせて会うことにした。
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