第580話
短大で面接の練習をしているが、先生方に色々言われていた。
まず、表情が硬い。
ニコリと笑顔で、と言われたが頬がヒクヒクと動くのだ。
なぜだ………………
私の表情筋は前より動くようになったはずだ。
何もない状況で笑顔を作るためにはどうすればいい?
場数か?
鏡の前に立って笑顔の練習をすればいいのか?
「凛さんはアルバイト経験あるかな?短大のお店以外で。あれは授業の延長線だから」
「飲食店でアルバイト経験あります」
「どんなことした?」
「注文を聞いて料理を運びます」
「調理場に入ったことは?」
「飲み物を作るために入ったことはあります」
「なるほど。なら、最初は接客を先に覚える感じだね」
最初から調理場に入れるとは思っていない。
海だって、最初は接客から学んでいた。
「そろそろ営業開始の時間だから、今日はこの辺りで。ゆっくり考えてくれていいからね?」
ゆっくり考えてもいいと言ってくれたが、正直なところ就活は急ぎでもある。
夏が終わり秋頃はもう終わりかけているはずだ。
本来、焦らないといけない時期だろう。
そんなことを悶々と考えながらお店から出た。
お昼にはまだ早いからと近くの道の駅に寄る。
ちょっと大きい道の駅らしく賑わっていた。
「わぁ!野菜が凄く安い!ねぇ?買わない?」
「トマトは家にあるでしょ」
「でも、すぐに無くなっちゃうでしょ?」
「………………あのね?俺、アメリカに行くからさ。俺がいない間どうするの?食材をダメにするわけにはいかないでしょ」
「………………そうだった。行くんだった。2人で食べ切れないかな?」
「2人じゃ無理でしょ」
「人を呼ぶか?」
「なんで、そこで人を呼ぶのかな?」
「だって、腐ったら勿体ないから」
「食べ切れる量を買えばいいんだよ」
「1日、2個ずつ消費すれば………………」
そもそも、なぜ箱のトマトを見ているの?
その隣にある袋のトマトは?
5つ入って120円らしいよ。
安いと思うけどなぁ。
「ねぇ!この椎茸見て!大きい!焼いて食べたくない?」
直売所なので、スーパーではあまり見かけない大きさの野菜やキノコを見かける。
そして、値段がとても安い。
安いものを見かけると、つい買ってしまうのがお母さんだ。
だが、食べるのは私とお母さんの2人だけになる。
お父さんは2週間くらい滞在するって言ってるし。
………………。
買いすぎはNGだ。
「麻矢。ちょっと待って。椎茸買うたら、舞茸はいらないよね。そんなにキノコいる?」
「炊き込みご飯にしようかと思って。椎茸は煮物かな」
「家に舞茸あるよ」
「………………さて、次に行きましょう!」
こんな調子でポイポイカゴの中に入れちゃうのだ。
太りそうだ。
お母さんが満足する頃にはお昼の時間になっていた。
車に荷物を詰め込みとんかつ屋へと向かう。
お店に着くと、お店の外までお客さんが並んでいた。
「2人は車にいて。受付してくるから。当分、お店の中には入れないでしょ」
お父さんは車から降りて店内へと入って行った。
ここからでも、かなり並んでいるのが分かるから結構待つことになりそうだ。
「ねぇ?凛」
「ん?」
「奥村さんのケーキ屋だけど、凛はどんな印象だった?」
「印象?」
「2人が求人情報を見ている間に、お店の中を見ていたんだけどね。凛は2回目だったでしょう?何か思ったことあるのかな?って」
お母さんは求人情報よりお店の中を見てたっけ。
何か気になったことでもあるのかなって思っていたけど。
「ザッ、街の中のケーキ屋さんって感じ」
「そうだねぇ。昔からあるケーキ屋さんって感じだったねぇ。子供が書いた絵が飾ってあったの見た?あれは近くの小学生が見学に来たのかもね。文章だけの手紙もあったから中学生も来たのかも。祭りが近いのかポスターも貼ってあった。奥村さんも参加するみたい。それから、誰かの手作りなのか小物が飾られていたっけ」
そんなところまで見てたのか。
何を見ていたのかと思ったら、レジの後ろの壁に飾られている物も見ていたらしい。
私はそこまで見ていないが、絵や手紙が飾られていたようだ。
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