第578話
奥村さんから連絡が来たのは、お父さんがアメリカの下見に行く2日前だった。
旦那さんの話だと、会って話したいから来てくれないか?という内容だった。
私ひとりで行こうとしたら、お父さんも一緒に行くと言ったので運転をお願いした。
それを聞いたお母さんも仕事を休んで行くと言い出し、結局3人で奥村さんのお店に行くことになった。
………………。
これはいいのだろうか?
びっくりするのではないか?
両親を連れて、就職先になるかもしれないお店に行くって………………
どうなんだろう?
普通は行かないよね?
そんなことを悶々と考えながら車に乗り込む。
「はい!しゅっぱーつ!」
助手席に座っているお母さんは凄く嬉しそうだ。
「麻矢、分かってると思うけど、今日は話を聞いたら帰るからね」
「分かってる。でも、夜ご飯はテイクアウトして家に食べましょうね。そのくらいはいいでしょ?ダメ?」
「いいよ」
お店に行く時間は午前9時。
お店まで3時間。
なので本日の起床時間は5時。
眠い………………
「麻矢。今日は凛の就活の件で行くだけだよ。分かってるよね?」
「分かってる!何度も言わないでよ。お昼は何食べる?洋食?和食?」
「さっき、朝ご飯食べたばかりで、もう次のお昼ご飯?」
「お昼の時間はすぐ来るものだから。和食だと何がいいかな?そば?うどん?天ぷら?カツ丼?」
「そうだなぁ………………凛は何食べたい?」
えっと、とんかつ?
魚より肉がいいのは自分の中では確定している。
家であまり出ない料理だとなんだ?
揚げ物を嫌がる人もいるけど、私の家だとそんなことはない。
お父さんの仕事事情でいろんな料理が出るし。
「とんかつが食べたい」
結局、一番最初に思ったものが食べたい。
「とんかつ?なら、とんかつ屋に行こうか。麻矢もそれでいい?」
「いいよ!調べてみる。どうせなら話題になってるお店がいいよね」
お母さんは慣れた手つきでスマホの画面を何度もタップする。
きっとSNSを使って調べているのだろう。
あれこれ調べている間に目的地に到着した。
お店の開店時間は10時からなので、お客さんの姿はない。
だが、ショーケースの中にはたくさんのケーキがすでに陳列されていた。
その中にはホールケーキもある。
この数を1人で作っているのか。
「あれ?家族で来たの?」
やはり、そこは突っ込むよね。
「こんにちは。凛の母の麻矢です」
「奥村達樹です。妻は奥でケーキを作っているので、ちょっと顔を出せないので申し訳ないです」
そうなると、今日は達樹さんがメインで話をするらしい。
「あの人、この時間に来るって分かっているはずなのに、厨房に入っちゃったわけ?」
お父さんは呆れ気味に言った。
「いやぁ、本当に申し訳ない。話なら俺のほうがいいでしょ?って言われちゃって。確かにそうだなって。成美は、自分が思ったことをズバズバ言うから伝わらないだろうし………………心の傷が残るようなことを言っちゃうんだよ。求人募集して面接したけど、悲惨なことになってさ。最初から対面させちゃダメだなって」
目が遠い。
余程、悲惨な目にあったのだろう。
何を言ったのか分からないけど、グサッとした一言を言ったのは分かる。
達樹さんはお店の奥から折りたたみ椅子を引っ張り出し3つ並べる。
その椅子に私たちが座ると達樹さんはショーケースの前に丸いスツール置いて座った。
「まずは、遠くから来てくれてありがとう。往復6時間くらいだから、気軽に呼べないし、この1回だけで終わらせたくて。成美が言った採用の件だけど、こちらとしてはこのお店で働いてほしいなって思っている。でも、お給料はそんなに高く出せない。家から通うことは難しいと思うから1人暮らしになると思うし、そうなると色々お金が掛かるからね」
達樹さんは私にA4用紙の紙を渡した。
そこには、お給料や社会保険など必要な情報が記載されていた。
お部屋貸し出し可能?
「俺にも見せて」
お父さんは顔を寄せて採用情報を読み始める。
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