第571話

腰壁を挟んだ隣の席から聞いたことのある声が聞こえる。


そして、誰かと一緒にいるのか女の人の声が聞こえる。



『私と約束したことなんで忘れちゃうの?何度も言ったでしょ?今度は絶対に忘れないでねって言ったよね?とても大事な話をするからって言ったよね?いい加減にしてよ!』



おや?


これは………………揉めているのか?


思わず海を見てしまう。


すると、海は横に顔を振る。


気にするなってことだろう。


あと、関わるなってことでもある。


私も関わるつもりはない。


面倒なことになりそうだし、私は揉め事を引っ張るらしいから。



「どうしようかなぁ。いろんなメニューがあって困っちゃうよ。ドリンクバーは絶対頼むでしょ?デザートも食べたいなぁ。サイドメニューもいいなぁ」



大塚さんは隣の声が気にならないらしい。


お腹が空いているから、隣の揉め事なんてどうでもいいのかもしれない。



「デザートもサイドメニューも頼めばいいよ。メインを食べて余裕があれば頼んでもいいし。私はカルボナーラにする」



今日は自分の財布と相談しなくていいから好きな物を頼める。


ちょっと高いステーキとか。


タッチパネルに番号を入力して注文カゴの中に入れる。



「私は、海老天丼にする。あと、サラダチキンも頼んじゃお、ドリンクバーは3人分ね」



「俺はハンバーグ定食」



注文を済ませるとドリンクバーがあるところに行く。


種類が豊富で何から飲もうか迷うところだ。


コップに氷を入れて、ジュースサーバーの前に立つ。


炭酸系を最初に飲んだらお腹が膨れてしまうから、お茶や炭酸ではないジュースがいいだろう。



「椎名さん、なんかめちゃくちゃ悩んでない?」



「ドリンクバーは最初が肝心なの。最初のチョイスであとが苦しくなるから」



「食べ放題とは違うよ」



「カルボナーラと合う飲み物は、さっぱり系かしら?で?大塚さん何にしたの?」



「ホットミルク」



………………。


意外なものだったな。



「好きなの飲めばいいっちゃ」



海はドリンクバーなのに水を持っている。


なぜだ?


まぁ、なんでもいいけど。



「嬢ちゃん、席に戻っているっちゃ。ゆっくりお悩み」



海はそう言って大塚さんと一緒に戻って行った。


レモネードがいいかな?


スッキリしそう。



「あらら?君とこんなところで会うなんて」



ゆっくり選んでいる場合ではなかった。


後ろを振り向くと怠そうに立っている奏多がいた。


お休みなのか、服装はどう見てもダル着だ。



「どうも」



そう言って立ち去ろうとしたら、目の前に立たれてしまった。


邪魔で仕方ない。



「誰かと一緒?父親?母親?」



「それ、あなたに関係ある?」



「気になる。新鮮な出来事が必要でね。もう疲れちゃった」



勝手に疲れてくれ。


そして、こっちに面倒事を持って来ないでほしい。



「疲れた時は甘いものだから、ここのジュースサーバーで癒されて」



コップにレモネードを注いでから立ち去る。


これで、何もなかったことには………………ならない。


後ろから追いかけてくるんだけど。


海と目が合って、めちゃくちゃ嫌そうな顔されたんだけど。


大塚さんも気づいたのか、こっちを凝視している。


私は気づかない振りをして席に座りレモネードを一口飲む。



「嬢ちゃん、余計なもん連れて来ちゃダメだっちゃ。私、何も知りません!って感じで戻って来ないでよぉ」



「無視すればいい」



「無視できる相手ならそれでええよ。コレはできんやろ?嬢ちゃんは、分かっているのにそんなこと言っちょる!」



「1人でペラペラ喋るアホはほっとけばいい。構う必要はない。あと、服装で判断すればいいでしょ?」



きっちりしていない服装なら仕事ではない。


完全にプライベートだ。


プライベートで女と揉めている。



「相変わらず冷たいなぁ。良いところに女の子が2人もいるから相談を聞いて欲しかったんだよね。男の意見も聞きたいから海さんからも聞こうかな」



奏多はグイグイと海を押して、自分のスペースを確保する。


というか、女の人はどうした?


ここに居てはダメなのではないか?



「自分の席にお戻りぃ。お店側が困るじゃろ?」



「ん?あっ、そっか!」



奏多は近くにいる店員さんを呼んで自分が座っていた席を片付けてと言った。


ということは、女の人はもういないみたいだ。

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