第569話

スーツを着ればOKというものではない。


化粧や髪型も重要な要素だ。


化粧はシンプルで血色が良く見えるメイク。


髪はピンや髪ゴムでまとめる。


鏡の前で最後のチェックをすれば終わりだ。


さて、そろそろ出かけたいのだが………………


チラッと大塚さんを見る。


オーダーしたスーツを着込み、メイクも髪型もバッチリだ。


だが、その隣にいる海が邪魔だ。


合同企業説明会の会場まで海が送り迎えをしてくれるらしいが………………



「凛。何か飲むか?それか、何か食べるか?」



出発するのに時間が掛かると思ったのか光さんが食事をすすめてきた。


この時間から出ると微妙な時間だよなぁ。


チラッと大塚さんと海を見る。


準備は完璧なのに、アレコレと細かいことを言う男だな。



「軽めに食べようと思います」



「そうか。なら、クロワッサン食べるか?」



「クロワッサン?」



パンも手作りにしたのか?


ロールパンとかじゃなくてクロワッサン………………


出てきたのは定番のプレーンクロワッサンではなく生クリームとあんこを挟んだクロワッサンだった。



「光さんが作ったんですか?」



「そうだ。試作品だな。和風なものにしようか、洋風にしようか」



どっちにしようか悩んでいるってことか。


これは和風だと思うから、洋風も出てきるってことだよね?



「もう一つは何系にしたんですか?」



「これだ」



置かれたのはフルーツと生クリームを挟んだクロワッサンだった。


どっちもハズレはないと思うけど。


では、あんこと生クリームのクロワッサンから食べてみるか。



「飲み物はコーヒーでいいか?」



「あっ、はい」



「砂糖とミルクは?」



「いらないです」



甘いものにはコーヒーが合う。


クロワッサンってボロボロ溢れるイメージが強い。


というか、絶対に溢す。


だが、これがクロワッサンだ。


しっとり系のクロワッサンもあるが、私はサクサク系が好きだ。


これは………スイーツ系だ。


サクサク系やしっとり系か………………


う〜ん。


あれ?


これって軽めか?


私、軽く食べようって思っていたけど。


でも、美味しいからいいか。



「眉間に皺が寄ってるぞ」



「サクサク系やしっとり系かで悩みました」



「今回はサクサク系だぞ。食べやすいのはしっとり系だな」



「はいサクサク系だと中身が出ちゃいそうです」



「誠也は、外はサクサクで中をしっとりにしたら?って言ってたぞ」



「それもありですね」



お父さんは既に試食済みだったか。



「凛はあんことスイーツどっちがいい?」



「そうですねぇ。私はあんこがいいです」



これは好みの話になるけど、あんこと生クリームの組み合わせが好きだ。


しつこくないっていうか、最後まで食べられる。



「サクサクのほうが軽く食べられそうです」



「意見が割れたな。今のところ半々だ」



クロワッサンを2つ食べてコーヒーを飲み終えた頃、やっと2人の話が終わった。



「椎名さん、待たせちゃってごめんね」



「かなり待ちました」



「ごめん」



解決?したならそれでいいけど。


光さんのお店から出て、なんとも言えない顔をしている海の運転で会場まで向かう。



「海、あなた面倒な男になったね」



「えっ?嬢ちゃん、なんか攻撃してない?俺に対して攻撃的?」



「あなたがワーワーうるさいからクロワッサン2つも食べちゃった」



「ワーワー………………クロワッサンは関係ないんよ」



「うるさい。当日になってワーワー言わないで。前日までにしなさい。全てを管理したいとか言わないでね。蹴りを入れたくなるから」



「暴力はダメっちゃよ。痛いし」



「あなたなら骨の1本2本くらい大丈夫でしょ。ちょっと大人しくなってちょうどいいと思うの」



「嬢ちゃんがめちゃくちゃ怒っているのは理解!」



理解するのは結構。


だが、それだけではないはずだ。


私が言いたいのは謝罪をしろと言いたいのだ。


大塚さんも大変だな。


こんな男と付き合うことになるなんて。



「理解しても示さないからタチが悪い。大塚さんも優しすぎると図に乗るから、たまにはキツく言ったほうがいいよ。躾も大事」



「わぁ、椎名さんから躾って単語が出た。なんか合う」



合う?


………………。


それは嬉しくない話だな。

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