第568話
ドーナツをモグモグと食べながら、この前のことを思い出す。
電話に出なくて、突撃訪問をしたら就職を提案されて………………
「ねぇ?大塚さんのところにも奥村さんって名前の評価表なかった?辛口だったはず」
「あぁ、あったよ。ボロクソ書いてあった」
やはり、大塚さんも同じような内容だったらしい。
「私のところには電話番号があったから掛けてみたの。電話には出なかったけど。そしたら、お父さんがお店に行こうってなって」
「えっ?ちょっと待って。電話に出ないからお店に行ったの?」
「うん。その人は、電話に出ない人らしい。でも、それでお終いにはできなかったというか、お父さんの知り合いだったっていうか。その人の性格を知っているから、お店まで行った。終わりの頃合いだったからケーキも残り物しかなかったけど、買ってきたよ」
「行動力凄いな。確かに、お店に招待するって書いてあったけど」
「ここまでは別に何事もなかったんだけどね。就職を提案された」
「えっ?」
大塚さんは私が言ったことをイマイチ分かっていないらしい。
そりゃそうだよね。
「お店で働かないか?ってことだね」
「それって、採用ってこと?どこにそんな要素があったの?椎名さんの評価表は良かったの?」
「いや、ボロボロな内容だったよ」
「………………それなら、なぜ採用?」
「本人に聞かないと分からない。あと、本人がそう言っても旦那さんには言ってなかったらしくて。お店のお金問題は旦那さんが担当らしいよ」
「それは、マズイのでは?」
「まぁ、うん。旦那さん、戸惑っていたよ。あとで連絡するってことになったけど」
「そっかぁ。もしかしたら、椎名さんの就職先決定か?」
いや、それはどうだろう。
………………。
就職先として、本当にいいのだろうか?って思う。
来なさいと言われて、行きますってことじゃないと思う。
「椎名さん、お悩み中?めちゃくちゃ眉間にシワが寄ってる。分かるよ。簡単に行きます、なんて言えないよねぇ」
難しい表情をしていたらしい。
お父さんの話では、実力がある人だと分かったけど。
今までの中で一番難しい。
自分の性格上、接客が苦手だ。
裏方が私には合ってはいると思う。
「椎名さん、今度、合同企業説明会があるんだけど。行ってみる?一つ一つ探すより、そういうところに行ったほうがいろんな企業が見れるよ」
「行く」
「大手から地元のお店まで来るらしいよ」
へ〜ぇ。
バランスを考えたのだろう。
「いつ?」
「今週末。えっとね………………」
大塚さんはスマホの画面を私に見せてきた。
「駅の近くか」
会場までの交通機関は大丈夫だな。
「ホテルの会場でやるみたい」
「服装はスーツなんだね」
「作ったスーツの出番だね!」
確かにそうだ。
URLを教えてもらい自分のスマホでも確認できるようにした。
詳細は帰ってから見よう。
「大塚さんは家に帰るの?それとも、海が来るの?」
「今日は家に帰ります!」
「そっか………………今日は家に帰るんだ………………なんか、大塚さんの家は放任だね」
「放任っていうか、間違いを犯してないから大丈夫なだけだよ」
………………。
間違いを犯してないと言っても、同棲しているようなものだ。
まぁ、大塚さんの親が心配していないというならいいけど。
そこまで私が突っ込んでいいものでもないし。
「飲み物おかわりしてくるね」
甘いものを食べると飲み物が足りなくなる。
今度は紅茶にしようかな。
それから、小一時間ほど時間を潰してから高速バスに乗った。
家に帰るとお父さんがキッチンでグラタンを作っていた。
今日の夕ご飯はかぼちゃグラタンらしい。
「おかえり」
「ただいま。今日はかぼちゃグラタンなんだね」
「かぼちゃを仕事先でもらったから。少し痛んでいたからグラタンにしちゃった」
「へ〜ぇ、今度ね、合同企業説明会に行こうと思うんだ」
「えっ?説明会?」
「大塚さんに聞いたの」
「ふ〜ん。いいんじゃない?そういうところに行って、いろいろ見るのもいいよね。奥村さん家は特殊っていうか、なんていうか。カードは1枚だけじゃなくて2枚3枚って持っていたほうがいいよ」
ということだったので、大塚さんと合同企業説明会に参加決定だ。
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