第565話
「大きなため息だね」
「そうなるよ」
「私は話の整理をしたい。色々な情報が出たので。まず、同じ短大出身………………お父さんの先輩?後輩?」
「先輩だよ。卒業しちゃったから、会わなかったけどね」
そっか。
だから社会人になってから会ったのか。
「夕ご飯はすき焼きだったよね?良いところあるから行こうか。今の時間だったらすぐ入れると思うよ」
そうだ。
すき焼きが食べられる。
整理する前にご飯を食べよう。
この辺の近くにあるのかと思ったら、車で50分くらい走ったところにお店はあった。
「このお店も年季を感じる」
「そーだね。外観はこんな感じだけど、中は綺麗だよ」
平屋の建物を店舗として改装したのかな?
見た目は普通の住宅にしか見えない。
「あっ、良かった。営業中だね」
お店の入り口には陶器で作られた狸が飾られており、営業中の看板を首に掛けられていた。
ガラガラと音を鳴らしながら引き違い戸を開けて入店する。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2名。座敷空いてるますか?」
「はい、大丈夫です。お席まで案内いたします。どうぞ、こちらへ」
和服がここのお店の制服らしい。
着るの大変そうだなぁ。
でも、和だから合っている。
案内された座敷は半個室になっており、掘り炬燵なので足が痺れることはないだろう。
注文はタッチパネル式になっており、メニューもそこから見るみたいだ。
「えっと、すき焼きにも肉の種類があるからね。どれがいい?」
すき焼きなら、お安いお肉よりちょっといいお肉がいい。
肩ロースかリブロース………………
定番は肩ロースだ。
霜降りのお肉が食べたい。
私はちょっといいお肉を指差した。
「コレね。サイドメニューも頼もうか?ご飯は食べたいよね。飲み物は?」
「卵焼きも食べたい。飲み物は烏龍茶がいい」
「はいはい。あ〜、酒飲みたくなるな」
「飲んだら帰れなくなるからダメ」
「分かってるよ。今度、家でもすき焼きしようか?あっ、焼肉とかしゃぶしゃぶでもいいよね」
タッチパネルで注文をしてから、少し待つとすき焼きの鍋を持った人がやってきた。
卓上のコンロに火をつけて、その上に鍋を置く。
具材や汁は自分で入れるらしく、専用の器に分けられていた。
準備が終わると、一通り説明をして店員は出て行った。
「凛やる?」
「お父さんがやって」
「分かった」
最初にお肉を焼くんだっけ?
すき焼きって具材を入れる順番があるから一気に煮ることができない。
お父さんは作り方が載っている紙を一切見ないまますき焼きを完成させる。
「熱いから火傷に注意してね」
「うん」
小皿に卵を割ってクルクルとかき混ぜる。
最初は何を食べようかな………………
お肉?
野菜?
きのこ?
………………。
お肉だな。
お肉を箸で掴み溶き卵の中に潜らせてからパクッと口の中に放り込む。
柔らかい。
すぐお肉が溶けちゃった。
「ねぇ?凛。さっきのことだけどさ。あれ、多分冗談で言ってないよ。思い付きで話すこともあるけど、あれは本気だと思う」
「就職のこと?」
「そっ、どうする?」
どうするって言われてもなぁ。
急なことだし、なんて言ったらいいのか。
「どうするって言われても、急に答えは出ないよ。そのつもりで行ったわけじゃないし」
「そうだよねぇ。俺もまさかって思う。グチグチと言われるかなって思っていたけど」
グチグチ言われたほうが嫌だけど。
「こっちから連絡したほうがいいかな?」
「連絡しても出ないでしょ。行かなきゃ」
就職どうしようかなって思っていたけど、こんな形で言われるとは思ってなかった。
「あの人の下で働くのは凄く大変だと思うよ。あの性格だし」
そうでしょうね。
あと、達樹さんの様子を見れば人を採用する余裕はないのではないだろうか?
「2人で話し合いをするのかな?」
「話し合いっていうか、押し切られるのではないかなぁ」
押し切られる?
それは、よろしくないのでは?
簡単に人を採用できないだろう。
お金問題も人を育てる問題もある。
教える………………
そういうタイプじゃないだろうなぁ。
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