第563話

お父さんの知り合いだという人のお店は商店街の中にあった。


オシャレなお店というより町のお菓子屋さんという感じのお店だ。


昔から長年やっているような貫禄がある。



「ボロいでしょ?」



………………。


それ、お店の前で言っちゃうの?


歴史があるって言ってくれないかな?


凄く失礼だと思う。



「見た目通りに昔からあるらしいよ。親の洋菓子店を引き継いだらしい」



「いい話だね」



「中に入るよ」



自動ドアが主流になってきているが、ここはドアを開く度にカランカランと鳴るタイプらしい。



「いらっしゃいま……せ………えっ?久々な人が来店したなぁ」



レジに立っている人が、びっくりした表情で話しかけてきた。


黒髪の黒縁メガネとピンクのエプロン姿の男性。


お父さんより年上か?


年下には見えない。



「こんにちは。今日は残りある?」



「あるけど………………買いに来るなんて初めてじゃない?妻に用事でしょ?呼ぼうか?」


「そうだけど、終わったの?」



「終わった。今は中でコーヒー飲んでる」



「なら、呼んでくれると嬉しいな」



「ちょっと待って」



そう行ってお店の奥へと消えていく。



「凛、ちょっとおいで」



お父さんは手招きをして、ショーケースの中を指差す。


そこには数は少なくなっているが、ケーキが並んでいた。


ショートケーキやチョコレートケーキとシュークリームなど、定番なスイーツが並んでいる。



「どれが食べたい?麻矢にも買って行こうか。拗ねてるだろうし」



「ショートケーキとチョコレートケーキ」



「まぁ、そこら辺しか残ってないからね。あとは全部売れちゃったみたい。季節のスイーツは完売だね。ここの一番人気なんだ。残っているケーキをそれぞれ3つずつ買う?」



「そんなに食べれるの?」



「大丈夫でしょ。明日の朝と夜に食べれば」



なんか贅沢な感じがする。



「ごめん。呼んだけど、休息の時間だから接客はできないって。えっと?買うのかな?」



まさかのお断りだった。


えっ?と思っている私に対して、お父さんはニコッと笑った。



「相変わらずだね。まぁ、終わるまで待とうかな。ケーキ買うからここで食べてもいいかな?持ち帰りもしたいから保冷もお願いね。残っているケーキを3つずつ持ち帰りで、チーズケーキ2つはここで食べる」



「ハハッ、本当にごめんね。ここまで来てくれたのに申し訳ない。えっと、飲み物はコーヒーでいいかな?娘さんはジュースがいいかな?オレンジジュースならあるんだけど」



「コーヒー2つでいいよ。ここのテーブル使っていいかな」



お店の角に置かれているのは小さなテーブルだ。


ここのお店には飲食ができるスペースはないので、ちょっとした待ちスペースみたいなものだろう。


というか、お店はまだ閉店時間ではないのでは?


こんなところで食べてていいのかな?



「うん。スツールで申し訳ないね。あぁ、もう残りが少ないし、今日は終わりかな。先にお店を閉めちゃうよ。そっちのほうはゆっくり出来るでしょ」



そう言って閉店作業を始める。


外に出ていた看板とのぼりを片付けてドアにクローズを掲げる。



「なんか悪いね。まだ残っていたのに」



「少しだけだから。ご近所に渡せばいいし。ちょっと待ってね」



ご近所………………


それは嬉しい。


ケーキって特別なときに買うものだから。



「はい、どうぞ。ミルクと砂糖はお好みで」



チーズケーキ2つと、コーヒーが3つ。


おや?


コーヒーが3つ?



「俺もここで休憩するね。今日は一段と忙しくてさ。お昼ご飯を食べる時間もなくて。今日は何か特別な日だった?」



「特に何もないと思うけど。そういう日もあるよ。バイトは?」



「休み。あ………………そうだ。紹介しなきゃね。俺の娘の凛。短大2年。製菓学科に通っているんだよ。君の奥さんの後輩だ」



「えっ?そうなの?そっか、同じ短大に………………誠也君も同じってことは、親子揃って同じ短大に行ったのか」



「そうなるね」



「厳しいところに行ったね」



あの、ちょっと前に戻ってもいいかな?


後輩って言った?


えっ?


同じ短大だったの?



「うちの娘は耐えられるよ。あと、夢は大きく!」



「夢は大きく?確かに、それはいいことだね。競争率激しいからね」



ちょっと………………


最初に聞かなければならないことがある。



「あの?お名前を聞いてもいいですか?」



私がそう言うと2人は「あっ」と呟いた。

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