第546話
柚月は大塚さんが作ったシュークリームを一口だけ食べて皿の上に戻した。
全部食べないの?
美味しいと思うけど。
「どっちも派手さはないけど、味は確かだね。これならいっか」
上から目線でなんか腹立つ。
「お前が審査してどうすんだよ。どっちもいいもん作ったと思うぞ。あっちはどんなもん作るか分からないが、基本がしっかりしているならいい勝負になる。やっぱ基本なんだよな」
光さんがそう言ってくれてちょっとスッキリした。
大塚さんのシュークリームもペロッと食べて飲み物を飲み干す。
ふぅ、満腹だ。
「壱夜、全部食べぇよ。希が作ったんやぞ。失礼やろ」
「海が食べたら?美味しいけど、俺はもういいかな」
「アホ失礼なヤツ!食べかけなん」
「いらないの?」
「いる!」
いるんだ………………
海は柚月の食べかけをもらい食べる。
なんだかなぁ。
大塚さんの目がキョロキョロしている。
柚月の顔を見ていいのか、それとも黙って海の顔を見るべきか………………
そんな感じなのかもしれない。
「会場は順調に整備されているの?」
「うん、順調だよ。2人もそうみたいだから安心した。あっちは力をかなり入れているみたいだから。自分が選ばれたいって必死らしいよ。専門の人からもアドバイスをもらっているらしい。それがダメってわけじゃないけど、人に頼るのはちょっとね」
それは、就職したいって気持ちが強いからじゃないかな?
料理系の仕事を探すのは大変そうだし。
安心できるところに就職したいよね。
それ以外の思惑もあるみたいだけど。
「必死じゃないとあなたのホテルに就職できないからじゃない?新人募集しても全員不採用にするくらい審査も厳しいみたいだし。優秀な人たちと一緒に仕事をしたいって思うのは彼女だけじゃないと思うけど」
「それだけじゃないけどね。純粋な気持ちだったら、こっちもそれなりの対応をするつもりだけど。これがうまく進んだら婚約者の座に収まっちゃうかもしれないから。もう喜一がいないから、父親も母親も俺の結婚相手に口出しができる」
まぁ、自分の息子の結婚相手は気になるだろう。
仕事がアレなだけに、慎重にもなる。
「孫を待ち望んでいるのかもね」
「口出しするなって言っているんだけどね。親の言うこと聞けないのか?って言ってくるんだよ。ちょっとね………………いや、だいぶイラッとする。あの人たちに言ったところで理解はできないから困ってる」
相変わらず、親に対して冷たいのね。
親だから何?という認識なのだろう。
「理解は難しいかもしれないが、伝えるべきだと思うけどな。揉めるのが面倒でも、一線引くなら完全に引け。分かるよな?お前なら」
光さんは残っているシュークリームを手に取りながら言う。
「簡単に言ってくれますねぇ。あの人たちは人の話を聞こうとしません。だから困っているんですよ。面白くないと途中で話を切ります。まぁ、いざとなった場合は消します」
「消すな。簡単に消せるもんじゃない。ただ、一言だけでいい。好いてる女がいるから何もするなって言えばいいだろ」
光さん………………
それを言ってしまうと、色々面倒なことになるのでは?
会わせろとか言ってこない?
「うわぁ、それを言っちゃうんですか?嫌がらせか何かですか?」
「ハッ!巻き込まれてるからな。凛は優しいから………………いや、麻痺?それも違うか。受け入れた状態になっちまったから違和感が全くないだろうし。俺が言ってやらんと誠也の心が荒れたままだ。分かるか?親心っていうのは複雑なんだよ。お前の親も同じで複雑なんだ」
「いや、俺の親はそんな感じじゃないですから。椎名さんの親はそうかもしれないけど」
まぁ、会場の準備は順調ってことで良かった。
本当はキッチン設備も見ておきたいところだけど、それは当日にならないと見せられないらしい。
自分の家から包丁とかキッチン用品は持ち出し禁止で用意されたものを使うことが決まりだ。
公平にってことだろう。
火加減見たかったなぁ………………
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