第544話
大塚さんは顔を真っ赤にさせ、我慢できなくなったのか顔を両手で覆った。
そんな大塚さんを海は離そうとしない。
なんだか、恥ずかしさというより可哀想に見えてくる。
恥じらう彼女を見て楽しんでいるような………………
ちょっとした意地悪、反抗心か?
「あのさぁ?俺が来るって分かっていたのに、何やってるわけ?嫌がらせか何か?これから打ち合わせをするって言ってるのに。は〜ぁ、海も変わったよねぇ。前はこんなことしなかったのに。立場を弁えていたのに、アホなことするなんて」
残念だと言ってるみたいだ。
まぁ、この2人はこのままで良いだろう。
海が離すつもりがないならしょうがない。
プリンが入った保冷ケースをテーブルに上に置いてから座った。
「ガキ共、飲み物持ってきたぞ………………って、何やってんだ?離してやれよ。それじゃ、話し合いが出来ないだろ。好きなのは分かったから後でやれよ。柚月の機嫌が悪くなる前に。いや、もう遅いか?」
光さんは4人分の飲み物を持ってきてくれた。
「水で良かったのか?」
光さんは柚月の前に水と氷が入ったコップを置いた。
大塚さんには桃ジュースで、海にはブラックコーヒーらしい。
私は先ほど頼んだ炭酸ジュース。
「ありがとうございます。これから2人が作ったものを食べるので味がある飲み物はいらないです」
そう柚月が言った。
なるほど、しっかり考えてのことだった。
大塚さんのはどこにあるのだろうか?
保冷ケースはないみたいだし。
お店の冷蔵庫に入っているのだろうか?
「もう!冷蔵庫から取り出さないといけないんだから離して!」
あっ、どうやら当たったらしい。
「いい、俺が持ってきてやるから。もうそのままでいろ。あとで邪魔されたとか言われるの嫌だし。最近の海はうるさくてしょうがない。ただ、仕事はするから影響は出てないがうるさい。喋るならまだいいが、ため息とかうるさい」
光さんが大塚さんのシュークリームを持ってきてくれるらしいが、最近の海の様子を間近で見ているから分かるのだろう。
うるさいってそっちのうるさいなんだね。
確かに、喋るよりため息を何度もされると嫌かも。
イラッとする。
「椎名さんのソレ?」
柚月は私が持ってきた保冷ケースを指をさす。
「うん」
蓋を開けてプリンと取り出す。
「ん?見た目は普通のプリンだね」
柚月はプリンを持ち上げてじっくり見る。
私が最終的に辿り着いたのは見た目が普通のプリンだ。
どの人も、あれ?普通のプリン?って思うはずだ。
お父さんもこれを最初に見て意外だったらしい。
フルーツを使ったプリンの試作品を作っているのを何度も見たからだろう。
確かに、そっち系もいいかもと考えたこともあったが結局フルーツで考えるのはやめた。
プリンとは何か………………と、なぜか理論的なことを考えだした時は頭を壁にぶつけようかと思った。
ぶつけて一度リセットしようかと思ったけど、ケイがテーブルの上に乗って背伸びをしているのを見てやめた。
あぁ、頭の中がグチャグチャになると人って何をするのか分からないね。
壁に頭をぶつけていたら穴が空いていたかもしれない。
そうなると怒られる。
「知ってる?プリンとは何かを考えすぎるとね、宇宙とは何か?と同じくらい頭の中に謎だらけになるの。そして、マーブルみたいにいろんなものが混ざって頭を壁にぶつけたくなるの。あれって、逃げようとしているのね。人って限界が来ると逃げようとするのよ。怖い」
「椎名さん?うん、頑張ったんだねぇ。苦労しましたってことだね。でもさ、ちょっと怖い。頭ぶつけたくなるって相当追い詰められたみたい」
「そうよ。私は追い詰められて、分かったの。あっ、一度何も考えないようにしようって。安売りで有名なスーパーで市販のプリンが60円だったから買ってみたの。そしたら凄く美味しいって気づいたの。いろんなプリンを食べたけど最終的には普通のプリンに行き着く」
家の冷蔵庫には市販のプリンが6つ入っている。
全部私がスーパーで買ったものだ。
メーカーによって固さも味も違うけど、どれも美味しい。
シンプルなプリンで、あれだけの種類があるのだ。
考えすぎってダメだよね。
分かっていたはずなのに、見えてなかったらしい。
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