第541話
アップルジュースを注いで戻ると女の姿はなかった。
その代わり、2人分の料理と風間はいる。
えっ?
何?
帰った?
それかトイレ?
「あの人はどこに行ったの?」
【帰ったぞ。バシッていい音が聞こえたんだ!コイツ、きっと叩かれたんだぞ。馬鹿だよなぁ?女を道具みたいな扱いするから叩かれて振られたんだ。可哀想な男だ。本命に振られ、紛い物にも振られ。情けない奴だよ】
なるほどねぇ。
亜紀に言われても風間は全く気にしてないみたいだけど。
ただ、コソコソと周りから声が聞こえる。
振られたらしい、という言葉が聞こえる。
女は消えたがその後も色々キツイな。
えっ?ちょっと待って。
これは何か勘違いされていそうな気もする。
あの女が消えて、私がここにいるし………………
泥沼じゃないからね。
浮気されたとかじゃないからね。
「何を言っているんだか。俺は全く傷ついてない。お前はどう何だ?羨ましいって思わないか?電話じゃなくて会えるからな」
【ハッ!何を言っているんだか。お前のほうが羨ましいって思ってるだろ?白井に近づけてないだろ?俺は連絡も簡単に出来るし、会おうとすれば変な手順を踏まなくても会えるぞ。ほれ、いいだろう?焦ったか?なぁ、焦ったか?ん?】
「ここにお前が居たら一発殴っていたな。良かったな。アメリカにいて。あぁ、そうだった。近いうち、アメリカに行く用事があったな。そのついでにお前のところに行くか」
【そうか。一緒にバーベキューに参加するか?武器も持ち込み可だぞ。先輩たちから容赦ない攻め方をされてボロボロになりながら食材を奪い合う。弱肉強食の世界だ】
あの女の分は風間が食べるのだろうか?
サラダ………………
サラダを頼んだのね。
サラダ、だけ。
ハンバーグとかメインは頼まなかったのか。
パーティーで何かを食べたからサラダだけにしたのか、ちょっと可愛く見せたいからサラダだけにしたのか。
どっちでもいいけど、真理亜はそんなこと考えないだろうな。
食べたいから食べるって考えだし、女の子だからたくさん食べられないという考え方はしない。
食べていいよって言われると遠慮しない子だ。
そこも真理亜らして好きだ。
風間もそういうところは気にしないだろう。
「サラダ食べるか?あの女、手をつけずに帰ったから。シェアサイズだから少し多い」
まぁ、食べられるけど。
サラダは頼んでなかったし、いいかな。
小皿に食べる分だけ取り分けてフォークを持つ。
では、いただきます。
「正直の話、そっちはどう何だ?お前の家と比べると」
【比べるもんじゃないだろ。あ〜、お前の家と比べるなら話は別だけどな。やっぱ、組織の大きさが違うから仕事の量も質も違う】
何だ?
もう言い合いは終わったの?
【毎日、電話が来るし雑務多いし。頭の回転フル稼働だ。あとは、裏と表の線引きがしっかりしている。だからって、表と関わっていないわけじゃない。そこが大きな違いだろうな】
「そうか………………お前にはピッタリな場所ってことか」
【なんだ?興味でもあるのか?本格的に始動するつもりか?大学卒業してからでもいいだろ】
「いや、日本にいるんだ。その間はこっちで動く」
【ふ〜ん。日本は平和だな】
「そうだな。仕事に戻った時、感覚が戻るか少々不安ではある」
自信がいつもありそうなのに、不安な時もあるのか。
裏に戻ればそのうち戻ると思うけど。
いつ戻るのか?と聞かれても、そのうちとしか言えないだけど。
このサラダ美味しいな。
具沢山だし。
サラダなのにボリュームあって食べた感ある。
【なぁ?凛のバスはあとどのくらい何だ?】
「えっと、1時間はある」
まだ、時間あるんだよねぇ。
「そんなにあるのか?なら、送っていくか?帰る方向は同じなんだ。乗っていけよ」
【いや、バスで帰れ、絶対バスで帰れ】
「送り狼になるつもりはない。この女に興味はない」
【そっちの心配はしてない。別の心配だ】
私、最初からバスで帰るつもりだったけど。
次は何を飲もうかな。
レモンティーでも飲もうかな。
送らせろ、送らなくていい、という言い合いをしているのを見ながら空になったコップを持つ。
もう、好きなだけ言い合いしてて。
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