兄と妹

あたしには兄弟姉妹がいない。



欲しいと思った事はある。



小学校の時クラスの女の子が、「お姉ちゃんに貰ったー」と見せてくれた筆箱。



新しい物じゃなかったけど、ピンク色の筆箱は凄く可愛かった。



「頂戴って言ったら「いいよ」ってくれたの!」


そう言って、嬉しそうに笑う女の子が羨ましかった。


仲が良いんだろうなって思った。



そんな些細なやり取りにすら憧れを感じて…


新しい筆箱をあげるからお姉ちゃんを頂戴って、そんな思いを女の子に抱いたのを覚えてる。



だからあたしにとって兄弟や姉妹ってゆうのは、仲の良いもんだと思ってた。



父さんもお母さんも一人っ子だから、あたしには親戚も居ないし…


どうゆうものなのか、想像の世界でしかわからない。それは、これから先もわからないままだと思ってた。



…だけど、その関係を目の当たりにする事となる。



次の日。


やけに機嫌の良い岸田ゆり子ちゃんに出迎えられ、教室の席に着いた。



「昨日は楽しかった」だとか、お礼や感想を散々聞かされ、あたしは相変わらずの愛想笑い。



「おうちの人、大丈夫だった?」


話題を変えようと、出て来た言葉は…



「あーうん。うちはそうゆうの気にしないから」


岸田ゆり子ちゃんの笑顔を、苦笑いに変えてしまったようで。



「そう、なんだ…」


ちょっと意外だった。



岸田ゆり子ちゃんの家族について何も知らないけど、厳しい御家庭だと思ってた。


これもまたあたしの勝手なイメージだけど、岸田ゆり子ちゃんは箱入り娘って感じがする。



どこに出しても恥ずかしくない、礼儀正しい子。とゆうイメージだったから…岸田家の人は、そうゆう面で厳しい方なんじゃないかと思ってた。



担任が来た事によって始まった朝のHRはいつもと何ら変わりなく、一限も二限も相変わらず退屈なまま終わっていった。



そして、午前中最後の授業は体育だった。



校庭に集合する為、あたし達は体操服のジャージに着替えていた。



岸田ゆり子ちゃんに「行こ!」と誘われて更衣室を出ようとした時、



「長谷川さーん!」



後ろから叫ばれて振り返ると、コバちゃんがこっちに向かってパタパタと走って来ていた。



「長谷川さん…ちょっと手伝ってくれる?」



息を切らしながら、着ているジャージの上着を脱いで「暑かったぁ」と漏らすコバちゃん。



体育の小林先生だ。



皆がいつもコバちゃんって呼んでるから、あたしも勝手にマネしてる。



長い髪をポニーテールにして、気合い十分なコバちゃんは、25歳の可愛らしい先生で人気だった。



「今日マラソンじゃなかったっけ?」


「それが急遽ソフトボールに変更しました!」


「…そうっすか」


「だから長谷川さん!ボールとか、一色全部グラウンドまでよろしく!」



コバちゃんはニコッと笑って親指を立てると、



「遅れないようにねー!」



嵐のように過ぎ去って行った。



「はぁ…」


「すずはいっつもコバちゃんに振り回されてるね」



隣に居た岸田ゆり子ちゃんが、クスクス笑って、「じゃあ、あたしは先に行ってます」と、裏切り行為に出てくれた。



「遅れないように頑張ります…」



また溜め息を吐くあたしに、「じゃあね」と手を振って、岸田ゆり子ちゃんは先にグラウンドへ向かった。



あたしは職員室へ向かい、体育倉庫の鍵を貰って、“廊下は走らない”と書かれた張り紙をフル無視して、全力疾走してやった。



コバちゃんの頼みを黙って聞くのも、岸田ゆり子ちゃんが裏切り行為を見せたのも、全て仕方のない事。



靴を履き替える為に渡り廊下へ向かって、変わらず猛ダッシュをする。


午前中はあそこに誰も居ないと分かっていながら、少しドキドキするのは、走り過ぎた所為だと思いたい。



案の定誰も居ないそこを通り抜け、息を切らしながら靴を履き替えた。



既にグラウンドに集合しているジャージ姿のクラスメイト達が見えて、急がなきゃ…と、更に猛ダッシュをかました。



グラウンドの角にある体育倉庫。

外で使うような物は全部ここに片付けてある。



埃っぽいそこから、籠に入っているソフトボールやバットなどを出して…



「重たいぃ…」



何往復もしながら運んだ。



「ハァ…」



あたしがこんなに必死なのは、



「マジ重いっ…」



そう、体育委員だから。



「クソ…」



こんな風に悪態を吐いてしまうのは、



「しんど…」



もう一人の体育委員が居ないから。



「アイツ…マジで…」



そのもう一人ってゆうのが、



「いつか覚えてろよ…」



あたしを避け続けて授業に出ない“アイ”だ。



「すず…」



遠くから聞こえて来るソフトボールを楽しんでいる皆の声に乗せて、岸田ゆり子ちゃんがスッと隣に腰を下ろした。



「…大丈夫?」



一頻ひとしきり準備をして、コバちゃんに「審判やって!」と、やった事もないのに体育委員とゆう理由で強制的にやらされ、今やっと別の子と交代したところだった。



「やばい…」



4月も終わりを迎えるとはいえ、照りつける太陽に夏じゃないかと勘違いしてしまいそうになる。


おまけに動き回ったせいで、体中から吹き出る汗と、喉の乾きに耐えられず、木陰に身を潜めていた。



気にかけてくれる岸田ゆり子ちゃんをチラっと横目に見て、「何か気持ち悪い…」と呟いた時には頭がグワングワン揺れてる気がした。



とにかく横になりたかった。

静かに眠りたかった。



だけど隣に居る岸田ゆり子ちゃんが、何度も「大丈夫?」と顔色を伺ってくるから、早々一人になりたいあたしは…



「保健室行ってくる…」


立ち上がってコバちゃんの元へ向かった。



あたしが「気分悪い」と呟けば、コバちゃんは血相変えて「保健室行っといで!」と叫んだ。



しつこい程に「一緒に行くよ」ってゆう岸田ゆり子ちゃんに、「大丈夫だから」と出た言葉は、自分でもわかるぐらい、刺があるように感じた。



それは体調が悪いせいなのか、彼女自身に対するものなのか…



少しの苛立ちを抱えたまま、岸田ゆり子ちゃんからの視線を背中に感じつつも、振り返らずに歩いた。



気持ちの問題なのか何なのか、あれだけ気持ち悪いと思っていた割に、意外と一人で歩けていた。



スタスタと軽快に…とまではいかないけど、まぁトボトボぐらいには歩けていた。



一人になった瞬間から、頭に浮かぶのは保健室のベッドに倒れ込む自分で…


早く横になりたい。っていう思いが、思考を鈍らせてたんだと思う。



靴を履き替える為に靴箱へ来た時、嫌な予感とゆうよりは、ほぼ確信していたんだと思う。



「なんっだそれ!!」


「だから言ったろ?ほんとなんだって」


「バッカ野郎!おまえそれほんとだったらヤバくね!?」




……4、5人は居るんじゃないだろうか。


遠目だから良く分からないけど、数人で固まっているのは分かる。



「はぁ…」


午前中最後の授業とゆう時点で気づくべきだった。



今日の体育の授業がソフトボールに変わった時点で、嫌な予感の一つでも浮かぶべきだった。


先輩方がお昼には来ているとゆう事。

外での体育には必ず、渡り廊下を通らなければならないとゆう事。


まだ授業中なだけに、ここを通る人は居なくて…変わりに見えるのは、そこに居座る先輩方だけ。



…憂鬱だった。


これなら、岸田ゆり子ちゃんの言葉に甘えていれば良かったとすら思う。



「ふぅ…」


漏れた息は、さっきから静まらない動悸を落ち着かせる為だった。



意を決して踏み出した一歩に、自分で自分を誉めてあげたい衝動にかられた。



段々と先輩達に近づいている。

彼らの姿が鮮明に映し出される。



もはや何が原因で気分が悪いのかさえ分からない。


憂鬱な気分が動悸を激しくさせ、体調の悪さが足取りを鈍らせる。




「あれ…?」



だから無視した。



「すーちゃんじゃん?」



絶対にあたしを見ながら、あたしの事を言ってるってわかった。



「どしたんだろ?」



それが、“あの人”、森ちゃんって事も。




「ほんと、何か気分悪そうじゃね?」


「でもさ、話しかけたらまたゆりちゃんが…」


「ジャージ着てっから体育だったんかな?」


「あー…今日暑いもんな」



ヒソヒソ話す気なんて全くないらしい先輩達の、あたしをネタにした会話が耳に届いた。



だけど完全無視を決めて通り過ぎる。


とりあえず今は、何よりも保健室に行きたい…





「…——えっ?」



目が覚めたら―…そこは保健室だった。



視界はカーテンで覆われていて、その向こう側が見えないけど。



確かにここは保健室だ。



今あたしが寝ているのは、あれだけ倒れ込みたいと望んだベッドで…


左の頬が枕に当たって気持ちいい。



窓が開いているのか、仕切られたカーテンがそよそよと揺れ、微かにだけど、遠くからコバちゃんの声が耳に届いた。



「走れ走れー!」って言ってる。


まだ授業中なのかも。



ここがやけに静かなせいで、外から聞こえる掛け声が、まるで子守歌のよう…



再び重くなる瞼に、今自分が保健室に居る意味を考える事すら面倒臭くて…



「んー…っ」


体を伸ばしながら、右側に寝返りを打った。



「……」


「……」



…——えっ?



「起きたか?」


「……」


「おい」


「…はい」


「大丈夫か?」


「……」


「おい」


「…はい」



自分の目が飛び出るんじゃないかと思ったぐらい、あたしの目は見開いていたと思う。



寝返りを打った体勢のまま、固まってしまう程驚いて…



てゆうか驚きすぎて、悲鳴どころか声一つ出なかった。



気配もなく音もなく…寝返りを打った先には、



“要注意人物”が居た。



見上げた先に交わる視線。


角度の問題かもしれないけど、見下ろされている事に恥ずかしさが芽生えてくる。



おちおち寝てもいられず…体を起き上がらせると、視線が同じぐらいになった。



どうやら椅子に座っていたらしい。腕を組んで大股開いて、渡り廊下に居た時みたいに。



まさかその椅子だと思った物も瓶ケースか?なんて思ったけど、背もたれにもたれかかっているから違うと分かった。



…どうして?



寝起きの頭はうまく働かず…「んー」と唸りながら、もしかして…と、予感がした。



「ぶっ倒れた」



…やっぱり。


そうだろうなと、ちょっと思った。



「だから、ここまで連れてきた」


「…―えっ?」


落としていた視線を上げると、



「だから…連れてきた」



あたしが聞き返した事に対してか、自分がもう一度同じ事を言う事に対してか、少し面倒臭そうに答えられた。



その態度にカチンと来てしまうのは、非常識だろうか。



「それはどうもありがとうございます」



ご機嫌伺いの一つも出来ないあたしは、正直父親以外の異性とあまり話しをしない。



だからこうゆう時戸惑ってしまう。


だけど戸惑いに気づかれたくないから、平然を装うとする。


その結果、素っ気ない態度をとってしまう。



思えば過去の恋愛も、こうゆうパターンが多かった。


気になると、気にしてないフリをして…

意識すると、意識しないように相手から離れてしまう。



いや、だからってこの人が気になるとかそうゆう話しじゃない。



ただ、思いの他戸惑っているだけだ。



確かに一度、“あの日”渡り廊下で会ってるけど、マジマジ眺めた訳じゃない。それ以降だって、渡り廊下を通る時は彼らと視線を合わせないようにしていた。



寝返りを打った時、その存在に驚いたのは勿論の事、目が合った瞬間、視線を逸らせなかったのも事実。




「大丈夫か」



今更だけど、結構近い。


その、距離が…



「はい」



だから直視できず、頭を上げても視線を合わせられなかった。



「……」



しかし、



「……」



何だ…



「……」



この沈黙は。



…気まず過ぎる。



もしかして、この人はあたしが起きるまで、ずっとここでこうして座ってたのだろうか…




「“すー”って言うのか?」


突然何を言い出したかと思えば、



「名前」


「あたしの…?」


「あぁ」



あたしの名前を“すー”だと思う意味が分からず。「違いますけど」って、素っ気ない態度になってしまう。



「違う?」


「違います」


「でも、“すー”って言ってたろ」



おいおい誰だよ。


人の事を“すー”なんて言う奴は―…



「あれ…?」



突如聞こえて来た遠慮がちな声に、誰かが保健室に入って来たのが分かり、無意識に息を潜めて耳を澄ました。



「…おーい…」



カーテンの向こうから再び聞こえてくる声に、すぐ近くで人の気配を感じた。



「開けるよー…?」



遠慮がちな声は語尾が小さく、ベッドを覆っていたカーテンがそーっと開かれると、



「おー居た居た」



安心したような表情の森ちゃんが、顔を覗かせた。



「あっ!すーちゃん起きたんだ」


「……」


「すーちゃん体調どうよ?もう大丈夫?」


「……」


「マジびっくりしたよ、すーちゃんいきなりぶっ倒れるしさ」


「……」


「すーちゃん聞いてる?」



ペラペラ喋る森ちゃんをポカンと見つめていたら、



「“すー”って言ってんじゃん」



目の前に座ってる人物が、森ちゃんを指差してあたしを見た。



「…言ってますね」



それに頷くと、「えっ?何が?」と森ちゃんがあたし達を交互に見つめるから、「あたしの名前、すずですよ」って教えてあげた。



「えっ?知ってるよ?」



さも当たり前のように言う森ちゃんに…



「えっ?知ってるっすか?」


驚いて噛んでしまうと、



「えっ?知ってるっすよ」


森ちゃんは少し笑って答えた。



いちいち真似しなくていいのに。


そこはスルーしてくれれば良いのに。



「で、すーちゃんはもう大丈夫?」



森ちゃんの優しい声に顔を上げると、



「大丈夫だ」


何故か椅子に座ってる人物が答えた。



「そっか、じゃあそろそろ行こうぜ」



あたしの意見はどうでもいいらしい…



「もうすぐ授業が終わる」


「あぁ」


「向こうに戻ろうぜ」


「……」


「ゆりちゃんダッシュで来るぞ」


「分かってる」



あたしの存在を無視して続けられる会話に、居心地の悪さを感じる。



「ミヤチが居たら、」


「分かってる」


「ミヤチ…?」



森ちゃんの言葉を遮って、「分かってる」と頷いた人物の溜め息と、あたしの声が同時に重なった。



いや、そんな見つめられても…



立ったままポカンとした表情を浮かべる森ちゃんの隣で、座ったまま眉間に皺の寄った人物が、


「何?」


また低い声を出した。



「おい」


「……」


「何だって言ってんだよ」



何だ何だと問い詰めないで頂きたい。



「すーちゃん?」


「はい」


「どしたの?」



…あたしはどうかしたんだろうか?




何を言ってるのか意味が分からなくて、「どうした」と言われても答えられない。



「今呼んだじゃん?」



そんなあたしに、森ちゃんが優しく導いてくれた。



「呼んだ?」


「うん」


「呼んだ…?」


「そう」


「呼んだって何?」


「えっ?」



森ちゃんはまたポカンとした表情に変わると、



「もしかしてすーちゃん、頭打って…」


「ないです」



話しが通じないと思われたらしい。



あたしが言いたいのは、そうゆう事じゃない。こうゆう時、理解し合えない事に、自分の口下手さが浮き彫りになる。



「さっき、“ミヤチ”って呼んだでしょ?」


「呼んでないです」


「…すーちゃん…」


「大丈夫です」



哀れみを向けようとしてくる森ちゃんの言葉を遮って、



「さっき“ミヤチ”て言ってたから、聞いた事あるなって思ったのが口に出てしまったって感じで」



口下手なりに説明をしてみた。



「あーなるほど」


どうやら今ので理解出来たらしい森ちゃんは、



「ミヤチってこの人の名前」


椅子に座ってる人物に視線を向けた。



森ちゃんと同じように椅子に座ったままの“ミヤチ”へ視線を向けると、目を細めて眉間に皺を寄せやがった。



「すーちゃん知らなかったんだ?」


「えっ?いや、」


「ん?知ってたの?」


「いや、知らないけど、ミヤチって言う単語は聞いた事があって…」



この人の名前がミヤチとゆう事は知らなかった。


ミヤチってゆうのが、誰かの名前だとゆう事は何となく分かっていた。



隣の席の女の子達が会話してる中で、何度も出てきた名前。


一度、岸田ゆり子ちゃんからも聞いた名前。



「へー」


この人なんだ。



クラスメイトの女子が騒ぐ程、人気の“ミヤチ”は、岸田ゆり子ちゃんが大っ嫌いと言った“要注意人物”だった。



それなら頷ける。



この“ミヤチ”が、女子に騒がれるのは納得できる。



…気がする。




「すーちゃんって、ゆりちゃんから何も聞いてない?」


「…何をですか?」



聞き返しといてあれだけど…この時、聞いちゃいけない事かもしれないと思った。


岸田ゆり子ちゃんは、聞いてもないのに話し出すとこがある。


だから、あたしが知らない事なら、彼女が知られたくない事なのかもしれない。



「ゆりちゃんとミヤチは…」


「あのっ、」


「兄と妹」



…遮ろうとした言葉は、無惨にも届かなかった。




「え?」


その内容に驚いて小さく声を漏らすあたしに、



兄妹きょうだいだよ。ミヤチはゆりちゃんの兄貴で、ゆりちゃんはミヤチの妹」


「血は…」


「もちろん繋がってる」


含み笑いを浮かべながら、森ちゃんは教えてくれた。



“まぁ仲は悪いけどね”



…そう笑って。



やっぱり聞いた事を後悔した。


岸田ゆり子ちゃんが大っ嫌いと言った“ミヤチ”は、“兄ミヤチ”だったなんて…



何度も言うタイミングはあった。



あれ兄貴なんだ。


とか。



あいつお兄ちゃんなの。


とか。



だけどあたしは岸田ゆり子ちゃんに兄が居る事も、家族構成すら知らない。



それはやっぱり、彼女の“言いたくない事”ではないのだろうか。



「ミヤチ、そろそろ…」



座ってる兄ミヤチに森ちゃんがそう促すと、兄ミヤチは静かに腰を上げた。



「じゃあね、すーちゃん気をつけてよ」



最後まであたしの事を“すーちゃん”呼ばわりする森ちゃんは、やっぱり優しい笑みを浮かべてくれる。



「はい、あのっ」


森ちゃんの言葉に頷くと、その隣に立っている兄ミヤチに視線を移し、



「ありがとうございました」


最後にもう一度、お礼を言っといた。



あたしに視線を向けた兄ミヤチは、「うん」とだけ呟いて、森ちゃんと一緒に保健室を出て行った。



保健室に一人…、タイミング良く流れたチャイムの音をボーっと聞いていた。



体育の片付けはコバちゃんが一人でやるのかな…って一瞬考えたけど、コバちゃんの事だから、誰かに手伝わせるな…と思って考えるのをやめた。



てゆうかそんな事じゃない。


今考えるべき事は、もっと他にある。



兄ミヤチの存在を知ってしまった今、岸田ゆり子ちゃんに会うのは気が引けてしまう。



さっき会って話したよ!


ついでにお兄ちゃんって事も聞いたよ!



なんて…あたしは軽々しく言えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る