あの人

教室へ向かう為に通る廊下は、保健室や職員室、それに校長室が続けて並び、色んな教室へ行き来する廊下だけに、1年生だけじゃなく、2、3年生ともすれ違う事が当たり前。



だから…



「あれっ?」


そんな聞き覚えのある声が耳に届いても、驚く事じゃない。



「お二人さんじゃないですか」


振り返った先に見えるのは、にこやかに笑みを浮かべる“あの人”。


いつかの昼休憩に、“アイ”を連れ去った“あの人”が居た。



呆然と立ち尽くすあたしの隣で、岸田ゆり子ちゃんが「何してんの?」と口を開いた。



「ゆりちゃん達こそ、何してんの?」


質問を質問で返され、「いや別に…」と声を落とす岸田ゆり子ちゃんは、「いやいや聞いてんのこっちだから」と、少し強めの口調を発した。



「俺はこれから渡り廊下に」


今のあたし達には完全にタブーなその場所に、変な空気が漂ったのを感じとってしまう。



「じゃあね」


言葉を返さないあたし達に、「じゃあね」と視線を向け、“あの人”は通り過ぎて行く。



その後ろ姿から、視線を岸田ゆり子ちゃんに戻すと、彼女もまた“あの人”を見ていた。




これは勘だけど…


自他共に良く当たるって認めるあたしの勘だけど…岸田ゆり子ちゃんは“あの人”の前だとあまり会話をしない。


少し不機嫌っぽくなってる気がする。


だけど“あの人”はそんなの気にしてないって感じで、岸田ゆり子ちゃんのそうゆう態度に慣れてる感じがした。



だからあたしが思うに、“あの人”は岸田ゆり子ちゃんにとって“アイ”と同じか…そりよりも近い存在だと思う。



「あの人ね、森ちゃんってゆうの。もり ミナト。だから、皆から“森ちゃん”って言われてる」



やっぱり聞いてもないのに、“あの人”について教えてくれた岸田ゆり子ちゃん。


あたしの勘は、良い線行ってると思う。

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