要注意人物
…そいつは突然現れた。
初めから居たのかもしれない。
気づかないうちに途中参加したのかもしれない。
その存在に気づいた時には、まるで隠されていたように、守られているように。数人の先輩に囲まれて、そいつは中心に座っていた。
瓶ケースをひっくり返したような物に腰を下ろして。偉そうに大股開いて。
まさに姿を現したって感じで…皆の注目を浴びるそいつ、岸田ゆり子ちゃんが “大っ嫌い” と向けたそいつ。
ゆっくりと視線を動かした“そいつ”は、口から白い煙をフワーっと吐き出し、岸田ゆり子ちゃんの鋭い視線を静かに受け止めていた。
…この人、煙草吸ってるし…
その堂々たる態度に、ここが学校だとゆう事を忘れてしまいそうになる。
2人は数秒視線を交え、先に目を逸らしたのは “そいつ”だった。
白い煙だけがユラユラと動いている。
通り過ぎる生徒達が、あたし達の事を気にしながら歩いているのがわかる。
はっきりと会話が聞こえた訳じゃないけど、何となく…自分達の事を話してるんだろうなって、雰囲気でわかった。
「行こ…」
岸田ゆり子ちゃんの擦れた声と、腕を掴んで来た手が同時にあたしを動かした。
引っ張られるようにして歩かされ、戸惑って後ろを振り返ると、心配そうな顔をして岸田ゆり子ちゃんを見ている “アイ” が視界に入って、何故か胸が痛んだ。
ズンズンと音が聞こえて来そうな歩き方をする岸田ゆり子ちゃんに向き直すと、黙ったまま靴箱まで歩かされ…
「ごめんね…」
振り向いた拍子に向けられた謝罪。
靴を履き替えて、校舎を出て、門まで何も話さずに歩いて…駅へ向かう道と家の方向へ帰る道に差し掛かり、岸田ゆり子ちゃんに視線を向けた。
「ごめんね…」
2度目の謝罪を口にした彼女は、申し訳なさそうに眉を下げる。
だからあたしは首を横に振り、「大丈夫」と小さく返した。
何が大丈夫なのか…自分でも良くわかってないのに。謝られたらそう返すしかなかった。
無理やり笑みを浮かべた岸田ゆり子ちゃんは、「…またね」と、やはりぎこちない笑みを浮かべ、駅の方へと帰って行った。
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