友達

あたしには友達がいない。



幼い頃は近所の子と公園で遊んだり、学校に行って色んな話をしたり、それなりに友達がいた。



だけど中学に入ってから転校ばかりしている内に、関わる子達を友達とは呼べなくなっていた。


次々に変わる転校先で、すぐに友達と呼べる関係を作れる程あたしは器用じゃない。



だからって人見知りって訳でもない。クラスで孤立しようとかも思ってない。



ただ、すぐに居なくなってしまうあたしに、周りが積極的に関わって来る事はなかった。


それを冷たいとは思わない。


それがあたりまえだとは思う。



いつの間にか同級生の名前を覚えようとすらせず、“クラスメイト”とゆう名詞で片付けていたのはあたしだ。



だから岸田ゆり子ちゃんには正直驚いた。



靴箱で靴を履き替え、「ありがとね」と別れを告げた時、それで伝わると思った。



「またね」とか「また明日」とか、あたしには必要のない言葉だったから。



未来を語る言葉なんて、成立しないから。


とゆうより、してこなかったから。



小学校の時、「またね」と言った友達にはもう何年も会っていない。


中学校の時、「また明日」と言ってくれたクラスメイトは、次の日に目すら合わさなかった。



それくらいあたしにとっての未来は、明日でさえ保証なんて出来ない。



だけど、岸田ゆり子ちゃんはそれを知らない。


だからしょうがないのかもしれない。




「…長谷川さん?」



靴箱の正面玄関に立ちつくしていたあたしは、どうやら他の生徒達の邪魔になっていたらしい。


向けられる視線に気づいて瞬きをすると、岸田ゆり子ちゃんにはしへと引っ張られた。



「ねぇ、長谷川さん?」


「…はい」



どう返事をしようか迷って出た言葉は、戸惑いでいっぱいだった。



「はいって…」


岸田ゆり子ちゃんはあたしの反応を見て、クスっと笑っている。



「そんなに困らせた?」


「えっ?」


「一緒に帰ろって言ったこと」



「そこまで躊躇ちゅうちょされるとは思わなかった」と、続けて困った様に笑った。



「…あ、」


その反応に、マズイと思った。単純に驚いた事を、岸田ゆり子ちゃんは、拒否の意味であたしが躊躇ちゅうちょしていると誤解している。



「ちがうちがう!」


もう一度否定の言葉を並べると、今度は岸田ゆり子ちゃんが驚いたように目をパチクリさせた。



「違うって…?」


「ちょっと驚いて…」



あたしが焦って弁解すると、岸田ゆり子ちゃんは「そっか」と、柔らかい笑みを浮かべた。



最初に名前を聞いた時のバツの悪さとは違えど、この時もまた…彼女に後ろめたい気持ちを感じた。



だからせめてものつぐないだった。



ごめんね。って…



クラスメイトの彼女の名前も知らず。一緒に帰らない?と誘ってくれた相手に、不快感を与えるような誤解を招いた。




だから、



「また…明日ね…」



何年か振りに、あたしは未来につなぐ約束をした。

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