第146話
「うぅ・・・わぁ・・・私が私が彼女を・・・。」
父親の悲痛な叫びが廊下に響く。
今更後悔しても遅いんだよ。
自棄に冷静な自分が居た。
「いくら悔やんでも元には戻らないよ。続きを聞かせてくれない?」
例え、父親を追い詰める行為だとしても、俺には真実を知る権利がある。
「・・・発狂した彼女が突然立ち上がり、私を突き飛ばして部屋から走り去ったんだ。私も慌てて後を追ったが・・・彼女は屋上から・・・なんの躊躇もなく笑顔を私に向けたまま飛び降りてしまった。」
青ざめた父親の顔。
笑顔で飛び降りたのは母親の唯一の強がりだったのかも知れない。
「あんたは・・・お母さんのその笑顔を一生背負って生きていけばいいんだ。」
気がついたらそう吐き捨てていた。
父親の顔が苦悩に歪む。
でも俺は言葉を続けた。
「全て、あんたが巻いた種だ。お母さんを裏切り苦しめて来た罪は重い。何も言わずにあんたの行為を黙認して来たお母さんの心の痛みはこんなモノじゃなかったはずだよ。」
そう・・・父親がいつか気づいて自分の元に帰って来てくれると信じ続けてたんだよ。
それなのに、何度も裏切り苦しめた。
そして、母親を壊してしまったんだよ・・・あんたは。
冷たく感情の無い瞳で父親を見下ろす。
「・・・す・・・すまない。すまない。私が・・・。」
「謝る相手が違うよ。それに、謝ってすむ事じゃないよ。」
取り乱す事なく話せているのは、きっと目の前の父親が憔悴しきっているからかも知れない。
もうこの人と話す事はない。
そう思った俺は踵を返すと要の元へ戻った。
しばらくして、手術室のランプが消えた。
中から出て来た医者は、神妙な面持ちで首を横に振る。
ストレッチャーに乗せられて運ばれて来た母親は、もう2度と目を覚ます事はなかった。
触れればまだ暖かいのに、次第に奪われていく母親の体温。
母親に縋り付きむせび泣く父親の姿に冷めた視線を送っていた。
それから後の事は殆ど覚えていない。
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