第102話

今すぐ車を止めれば、この先の未来はすべて変わるような気がした。







それでも、それが出来なかったのは、繋いだ琥珀の手の温もりを手放せなかったから。










ごめん、琥珀。






ごめん、リク兄。









酷い奴だと罵られようと、琥珀のこの手をもう離せない。







俺は正面に向き直ると、静かに目を閉じた。






静まり返る車内に流れるのは、遠慮がちなボリュームのFM。






流行りの歌らしいそれは、恋の歌。





【君の事を手放せない。


君を自由にしてあげれない。


たとえエゴだと笑われてもいい。


君以外いらないんだ。


君は俺の全てだから。


だからどうか、俺の傍でいつまでも笑っていてくれ。】






まさに、今の俺の気持そのもので、自嘲的な笑みが漏れた。










自分の狡さに、反吐が出る。








それでも、もう後戻りは出来ない。







窓の外を見ている琥珀の髪をゆるりと撫でつけた。





良く伸びた黒髪は、手入れをきちんと施されていてとても触り心地が良かった。




ひと房掴むと、そこにキスを落とす。








「ナナ、恥ずかしいじゃん。」



振り向いて、顔を赤らめる琥珀。




「髪ぐらいいいでしょう?」



なんて軽く言えば、




「ナナは、アメリカンだから困る。」



なんて言われた。






アメリカンってなんなのさ?






「琥珀、俺は日本人だけど?」



と当たり前のことを言えば、




「分かってるよ、そんな事。」



プクッと頬を膨らませて、




「だって、か・・・髪にき・・キスしちゃうんだもん。」



そう言った後、恥ずかしそうに目を伏せた。







「僕がキスしたいと思うのは琥珀だけだし。琥珀にはいつでもどこでも触れて居たいと思うんだよ。」



なんて甘い言葉を言えば、耳まで真っ赤になった琥珀。





ホント、可愛すぎる。







リク兄はこんな風にしなかったの?




なんて聞きかけて口をつぐむ。





自分で墓穴を掘るなんてばかばかしい事出来ない。

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