第101話

ふっと、視線を感じて、振り返った俺の目に映ったのは、驚いた表情でこちらを見る上境紘の顔。









目が合った瞬間ヤバい!って思った。






結構な距離が開いていたから、彼女がなにを叫んだのかは聞こえなかった。






でも口の動きが『待って、話があるの』そう言ってるように思えた。







俺の本能が騒ぎ出す。






彼女から逃げないといけないと。







上境紘から視線を逸らせると、俺は辺りを見回した。






このままホテルに帰るのは危険だ。






上境紘が追ってくる可能性がある。






「琥珀、少しドライブに行こう。」



「えっ?」



ホテルを目前にしてそう言った俺の言葉に戸惑った様子の琥珀。






「さ、乗って。」



琥珀の手を引いて、近くに止まってたタクシーに乗り込んだ。








俺達が乗り込むのを見計らって【バタン】と閉まるドア。






「どちらまで?」



と聞かれ咄嗟に言葉を口にした。





「この近くの海岸まで。」




「・・・・はい。」



ミラー越しに視線の合った運転手は、少し困惑気味に頷いた。










「海に行くの?」



隣に座る琥珀が首を傾げる。






「うん、まだ早いから少し散歩しようね。」



なんて返した俺は、さっきまで幸せに浸っていたくせに今は明らかに動揺している。






「・・・うん。」




琥珀はそれ以上言葉をつづけなかった。





きっと、繋いだ俺の手が少し震えていたからだと思う。






琥珀は窓に視線を移すと、俺の手を無言のまま握りしめた。






そんな優しい琥珀に胸が痛んだ。






ごめんね、琥珀。









琥珀に気づかれない様に、振り返ってリアウィンドウから、上境紘の姿を探す。






それはすぐに見つかった。




すでに走り出した車を、何かを言いながら追いかけてくる姿が見えた。







ドクン・・・・と高鳴る心臓。







やっぱり上境紘は、俺達に何か言いたいんだと思う。






いや、俺じゃなく、琥珀に何かを伝えたいのかもしれない。

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