It is a thing tale.

月の幻想

第86話

日曜の公園。







賑わう芝生。







親子連れがレジャーシートを広げて楽しげに遊ぶ。








目の前で小さな子と戯れるのは愛おしい彼女。






レジャーシートに胡座をかいて座ったまま、無邪気に笑う2人を見つめていた。











「ナナ、連れて来てくれてありがと。」



一歳になる瑠璃を抱き上げて琥珀が微笑む。





「ううん、リク兄が急に仕事になっちゃったのは残念だったね。」



俺は首を左右に振ってからそう言う。






そう、俺はリク兄のピンチヒッター。






琥珀と瑠璃はリク兄の大切な女と娘。







どんなに欲しくても手に入らない存在。






今日だって、家族3人で来るはずだったんだ。






たまたまリク兄の会社で緊急事態が起こって、俺が代わりに参加する事になった。





出発の準備が終わった後に仕事が入ってしまったリク兄が、琥珀と瑠璃の為を思って実家まで2人を連れて来て、俺に託した。






こう見えても、リク兄には信用されてるから。







琥珀は好きだけど、随分と前に諦めた。






好きだと言う気持ちは忘れる事はないけど、手に入れたいとは思わない。







リク兄の隣で幸せそうに微笑む琥珀が1番綺麗に見えるんだ。





俺じゃ、あんな笑顔にしてやれない。






見守れるだけで幸せなんだ。






不毛の愛だと笑う奴も居るだろけど、俺はこの位置を結構気に入ってる。








琥珀の腕の中でバタバタと動きだした瑠璃。



「もう、瑠璃、おとなしくしなさい。」



琥珀が眉をへの字に曲げる。



「降ろしてやれば?歩きたいんだよ、きっと。」



俺はそう言って微笑む。




「うん、そうする。」



琥珀は体を屈めると瑠璃を芝生の上に降ろした。





「あぃ・・・あう。」



最近、歩き始めた瑠璃がヨタヨタとこちらに向かってくる。





ああ、愛らしい。




クリクリとした瞳が俺を見据える。

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