第53話

翡翠は静かに、六織の傍に歩み寄ると、その胸ぐらを掴み上げた。






「琥珀をくれてやる。でも、こいつを昔みたいに泣かせたら承知しねぇ。」






「・・・・。」




くれてやるって、あんたのじゃねぇよ!






こいつは元々俺のだろ?



とも言えずに、翡翠と向き合う六織。






翡翠から放たれる殺気は、花龍時代を彷彿させる。








「順番を間違えたのはお前の失態だ。それは分かるな?」




「はい。」





「じゃ、歯くいしばれ!」




そう言われて、六織は奥歯を噛み締めた。







次の瞬間、ガツッと鈍い音と共に六織が吹き飛んだ。







「リク!」



と琥珀の悲鳴。





「あら!」



とマリの驚いた声。





「はぁ・・・。」



と溜息を洩らした元就には、今の状況は予測できていたらしい。









琥珀は慌てて六織に駆け寄ろうとするが、



「来るんじゃねぇ!」



六織の低い声に、立ち止まる。







六織は唇に滲む血を手の甲で拭いながら立ち上がると、翡翠の前に再び立った。





「すいませんでした。」





頭を45度に曲げて頭を下げる。






「琥珀は必ず幸せにします。だから、俺にください。貴方が大切にしてきた以上に大切にします。」





頭を下げたままそう言い切った。








「フッ・・・大した自信じゃねぇか!頭上げろ。」




翡翠の口角が上がる。






「自信がないと貴方と向き合えませんよ。」



と言った六織に、




「上等だ!自分の言った事は必ず守れよ!」




と六織の胸元に軽いパンチを当てた。





「もちろんですよ。こいつは、俺の大事な女ですからね?」




挑発的な笑みを浮かべた六織。






さっきまで張り詰めていた空気が和らいでいく。








「さ、ご飯の続き食べましょう?お祝いに頂いた高級ワインも開けましょうね?」




空気を見計らったようにマリの声が響いた。




その手にはいつの間に持ってきたのか、本当に高級ワインが握られていた。









「良し!今日は飲み明かすぞ!」





六織の肩に上を回す翡翠。





「えぇ。付き合います。」




と笑みを浮かべた六織。





琥珀はそんな2人を幸せそうに見つめていた。

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