第51話

マリは笑顔のまま琥珀を見ると、




「ああなった翡翠君は、私にも止められないわねぇ。」



やっぱりどこか楽しげに笑った。








マリさんは、Sじゃないのかと思った瞬間だった。









「それにね?六織君も、覚悟の上だったはずよ?」




不安あげに六織を見ていた琥珀の顔を覗きこむマリ。






「・・・・うん。」





「遅かれ早かれ、言わなきゃいけないんだしね。いい機会だと思うわよ。この難関を乗り越えないと、先に進めないでしょ?」




マリさん言う通りだと思った。







ひー君が我が家の最終兵器。






お父さんよりも父親らしい人。






いつも私を大切に守り育ててくれた人。






どんな時も傍に居て、どんな時も励ましてくれた。






私の・・・大切なお兄ちゃん。






過保護過ぎるのは大変だったけど、それでも今の私がいるのはひー君のお蔭だ。







珊瑚ちゃんの時も、記憶を取り戻した時も、リクを失った時も、傍に居て支えてくれた。







ホント、マリさんの言う通りだよね?









ひー君が許してくれないと何も始まらない。





始められないんだ。









私が・・・私の口で伝えないと。





お父さんや六織の任せてる場合じゃないよね?









そうだよね?珊瑚ちゃん。






そう思った瞬間、



『がんばれ!』




そう聞こえた気がした。









琥珀は大きく深呼吸すると、静かに口を開いた。




「ひー君、ごめんなさい。」






そう言って、真っ直ぐに翡翠を見つめた。








「・・・・琥珀?」






六織を睨みつけていた翡翠の瞳が、ゆっくりと琥珀を捉えた。









「ひー君、赤ちゃんが出来たの、今二か月なんだって。」




膨れてもいないお腹に両手を添える。






「・・・あぁ。」




翡翠の視線が琥珀のお腹に向かう。







「まだね?学生だし、計画もなしにこうなったのは、ダメだと思う。でもね、小さな命がここに居るんだよ。まだそんな実感ないけど、確実にここに居る。」




琥珀の顔はすっかり母親の様で、翡翠は息を飲んだ。






昔見た母親の面影が琥珀に見て取れたからだ。

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