第46話

「理由は分かったし、2人の意志も分かったよ?」




穏やかな声が床の間に響く。






「・・・お父さん。」




無性に泣きたくなった。







「琥珀も六織君も2人で決めたんだろ?」




その声に、




「はい、2人で決めました。」



はっきりとした声で六織が答える。






「だったら、私は口出しはしない。2人で幸せにおなり。本来ならここで一発位は六織君を殴り飛ばしてみたい気もするが・・・今回は遠慮しておこう。」




怖い事、さらりと言わないでしょ。




琥珀はギョッとして元就を見る。




「心配いらないよ。琥珀が幸せになれるのなら私はそれでいいんだ。六織君、娘を頼むよ。」




琥珀にニッコリと笑いかけた元就は、六織に向かって頭を下げた。






「はい、幸せにします。俺の命に代えても。」





六織の揺るぎ無い声に、目じりに溜まっていた涙が一気に決壊した。







ポタポタと畳の上に流れ落ちる涙。





「・・・・うぅ・・・グスッ・・・。」






「琥珀、お腹に宿った命。大切にするんだよ?」





優しい眼差しと優しい父の声。





「・・・う・・うんうん。」




あふれ出る涙を拭いながら、何度も首を縦に振った。









「ところで、大学の方がどうするんだい?看護師になる夢もここまで頑張ったのに諦めるのは勿体ないしね?」




元就の言葉に、





「もちろん、大学もこのまま通えるようにします。ただし体に負担の無い程度にですが。資格も試験も先に取っておけば、出産後に夢をかなえる事も出来ますし。琥珀の夢を潰すつもりはありません。全面的に応援して協力していきます。」



六織は胸を張って答えた。







「そうか・・・うん。それなら良かった。琥珀、出来た彼で良かったね?」




今度こそ、本当の笑顔を琥珀に向けた。





「うん。私には勿体ないぐらい。」



涙でグチャグチャになった顔で、嬉しそうに笑った。






本当に幸せだと思った。







優しい父が居て、誰よりも自分を思いやってくれる彼が居る。







今の私はきっと誰よりも幸せなんだと思った。

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