第44話
「失礼します。」
もう一度そう言うと、六織は床の間に足を踏み入れる。
静かにテーブルを挟んで座布団の上に座る。
私も行くべきよね?
そう思いながらも、張り詰めた空気に緊張して入り口で立ち往生する琥珀。
床の間の掛け軸の前に威風堂々とした姿で座ってこちらを見ている父親と目が合う。
「どうした?早くお入り?」
三日月になった優しい瞳が琥珀を促した。
「あ・・・う・・うん。」
琥珀は何かに弾かれたように、床の間に足を踏み入れると六織の隣に並んで座った。
マリは琥珀が座ったのを見届けてから、床の間に入ると、元就の前に六織から貰った手土産を差し出した。
「ご丁寧に、手土産を頂いたんですよ?元就さん。」
綺麗に微笑んだ。
「お!俺の好きな金ツバだな?マリさん、悪いが玉露を頼むよ。皆で頂こう。」
マリに向ける眼差しはとても穏やかだった。
「はい、そうしましょう。」
マリは再び箱を手に取ると、床の間を後にした。
締め切られた床の間に、元就と六織と琥珀の3人だけが取り残された。
和んだはずの空気が、再び緊張をし始める。
「・・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
少しの沈黙が続く。
こんなにもピーンと張り詰め空気を私は知らない。
お父さんが正装で、床の間に私達を、迎え入れた事も。
隣の六織が、ネクタイを絞めてスーツ姿で正装していることも。
この緊張を煽る物でしかない。
悪阻のムカつきは少ないものの、口から何か飛び出してしまうそうな感覚に取りつかれる。
その緊張の中、口を開いたのは六織。
「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。」
座っていた座布団から下りて頭を下げた。
不謹慎だけど、真剣な眼差しの六織の横顔に見惚れてしまう。
胸がキュンと高鳴る。
「いや、こちらこそ、ご足労頂きありがとう。」
元就までが丁寧に頭を下げた。
えっ?こんな感じで話が進む訳?
戸惑う琥珀をよそに、六織と父親の間に特殊な空気が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます