第22話

「ああ、さっさと話せよ。俺も暇じゃねぇ。」



そう言って泰雅は煙草を灰皿に揉み消して、眉間にシワを寄せたまま泰喜を見た。





「ああ、単刀直入に言う。お前、法学部受けろ。で、うちで働け。」



「はっ?」



口をポカンと開けて目を丸めて泰雅は固まった。







「マヌケな顔してんな!どうせ、進路なんて決まってねぇんだろ?だったら、そうしろよ。俺は、てめぇと働きてぇと思ってる。」



さっきまでの浮ついた様な表情じゃなく、真剣な顔で泰雅にそう告げる。







「・・・な・・・何いってんだ?」




どこの大学にしても、法学部なんて今から勉強したぐらいじゃ入れねぇだろ?




それに、今までそんな事言った事無かったじゃねぇか?





どうして、こんな時期に・・・。






「泰雅、今だからだ。ゆっくり考えろ、と言ってやりてぇが、早く決断して勉強を始めろよ。入試に必要な資料や、予備校なんかは俺が直ぐに手配してやる。」



「・・・・・。」



なんなんだ、こいつ。





真面目な面して、すげぇ事言ってんなよ。






初めて親父に言われた言葉に泰雅は動揺した。






今まで、そんな事を言われた事も無かったのに。






突然の誘い。






しかも、皆が進路を決め終わったこんな時期に。




受験までにはもう三ヶ月もない。







「話はそれだけだ、決まったら連絡しろ。別に無理強いするつもりはねぇ。嫌なら別の道を歩いても構わねぇからな?ま、俺は行くわ。クライアントと待ち合わせてんだよ。」



泰喜は側にあった仕事用の鞄を手に立ち上がる。





「あ・・・おい!言い逃げかよ!」



焦った泰雅も立ち上がると泰喜を呼び止める。






「ククク・・・顔が焦り過ぎだ。じゃあな?」




口元に笑みを浮かべた泰喜は、泰雅を一瞥してから、応接室を出て行った。








泰雅は動けないままパタンと虚しく閉まるドアを見つめていた。







・・・・・んだよ、あの親父。




俺にどうしろってんだよ。








強張っていた体の力が一気に抜けた。






「・・・弁護士を目指せだって?」



呟いた言葉は、応接室に小さく響いた。

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