第12話

「いつまでマヌケ面してんだ?」



眉を寄せて顔を棗を見る翡翠。





「なっ・・・。」



下唇を噛み締めた棗。





「ほら、行くぞ?」




有無を言わせずに棗の手を掴むと、ツカツカと歩き出した翡翠。






困惑すり棗なんて、まったく気にしていない様子。







ま・・・待ってよ。





高いヒールで縺れそうになる足をひたすら動かした。







ホテルに入ると、一階にあるフレンチレストランに向かった。







「いらっしゃいませ。相良様。」



レストランの支配人が、翡翠の姿を見るなり歩み寄って来る。





「ああ。支配人久しぶり。得意先は来てるか?」




「はい、少し前にいらっしゃいました。ご予約の席にご案内致しました。」



丁寧にお辞儀をする支配人。






「そうか。」




翡翠の言葉に、




「ではご案内いたします。」



スマートな誘導で、店内へと案内してくれた。







「棗、もっとくっついてろ。それと、今から俺は社長ではなく翡翠だ。間違えるな。」



そう言うと、棗をスマートエスコートする。





「えっ?・・・あ・・でも・・。」



社長を名前で呼ぶとか有り得ないんだけど?




って言うか、こんな付け焼き刃すぐにバレちゃうわよ。





不安げに隣を見上げた棗に、



「きちんと話を合わせろよ。相槌をうつだけでいいようにはする。棗、この仕事は重要だ。お前は俺の婚約者と言う仕事をしっかりこなせ。」




仕事だと言われればやるしかない。





棗は覚悟を決める。






やってやろうじゃないの!




キッと前を見据えて背筋を整える。






棗からは、ピンと張り詰めた緊張が漂う。




その顔は、高貴でとても綺麗に輝いていた。









翡翠はどうやら、棗の扱いが上手いらしい。






ククク・・・上手く乗せられたな?




自分の作戦が思いの他上手く行った事に胸が高鳴った。




翡翠は棗に知られない様に口角をあげた。

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