第13話

「お待たせ致しました。お連れの方をお連れいたしました。」



支配人は窓際の特等席まで行くと、そう挨拶をした。






窓際の席には先に来てた大成建設の女社長、牧村貴美子が座って煙草をふかしていた。






年の頃は30代後半。





若くてとても綺麗な人だ。





やり手で策略家だと有名な彼女は自信に満ちあふれた顔をしていた。





翡翠を見るとすぐに手に持っていた煙草を灰皿に押し消して立ち上がると、色気のある顔で微笑んだ。





「こんばんは、本日はお招き頂きありがとうございます。」



「いえ、こちらこそ、ご足労頂きありがとうございます。」



社交辞令の応酬だ。






「どうぞ、おかけください。」



翡翠がそう言うと、支配人が牧村の後ろに素早く回って椅子を引いた。




「失礼いたします。」



支配人のスマートな対応にお礼を言うでもなく、座る牧村。





彼女は気位が高い。








「棗、君も座りなさい。」



翡翠の後ろに控えていた棗に、翡翠が声をかけた。



牧村の表情が分かる。





棗を敵しした瞳で2人の動きに目を見張っている。





翡翠はそんな事を気にする様子もなく、棗の座る椅子を引いてやる。




今までされた事のないエスコートに戸惑いながらも、仕事なんだ!と言い聞かせて冷静を演じる棗。




「ありがとう、翡翠さん。」



ニッコリと微笑んでから椅子に座った。





「・・・いいんだよ。」



棗の微笑みに一瞬驚いた翡翠だが、すぐさまスマートに微笑み返した。




そして、自分も棗の隣に腰を下ろす。






2人のただならね雰囲気に苛立つのは牧村。








「相良様、お料理を御運びして宜しいでしょうか?」


と支配人の声。




「ああ、頼む。」



「かしこまりました。食前酒はいかが致しましょう?」


支配人が手渡したのはフランス語で書かれたワインのリスト。




「う~ん、そうだな。あ、牧村さんは何か飲みたい物はありますか?」



リストを牧村に手渡そうと差し出した。




「いえ、お任せするわ。」



牧村は妖艶に微笑む。



その瞳には翡翠しか映っていないようだ。

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