第8話
【コンコン】とノックが聞こえて、
「はい。」
と言えば、
「失礼します。」
と、数着のカジュアルなドレスを持った店長がドアを開けた。
「こちらを取り合えず順番に着てください。時間が無いらしいので、素早く着て、ドアを開けてくださいね。」
「えっ・・・はっ?」
戸惑う棗にドレスを押し付けて、ドアを閉めた店長。
あ・・・・・勘弁してよ。
ホントに時間無いんだって、何が嬉しくてこんな事を・・・。
肩を落としてうなだれたまま動けない棗に、
「おい!早くしろよ、時間ねぇぞ。」
と、悪魔の声がドアの向こうからかかる。
「・・・・ありえないつーの。」
顔を歪めた棗だったが、急いでスーツを脱ぐと一枚目のドレスに手を通した。
ここで、着るとか着ないとか押し問答をした所で、時間が過ぎてしまうだけだもの、社長の思う通りにしてから苦情を言えばいいわ。
手早くドレスを着るとドアを開けた。
「あ~、その赤はイマイチ。次。」
ドア前に陣取っていた翡翠が簡単にそう告げる。
うざっ!何よ。
とは思ったが、何も言わずにドアを閉めた棗。
素早くドレスを脱ぎ捨て、次を着る。
で、再びドアを開ける。
「あ~お前はピンクとか無理だな?やっぱ、ピンクは琥珀だな。」
そんなくだらない付け足しいりません。
ピクリとこめかみに血管が浮かぶ。
そんな事を、その後も三回ほど繰り返した。
色は、白黒、白、オレンジ。
どれも却下された。
なんなのよ、いったい。
怒りながらも腕時計で時間を確認する。
「次のがダメだったら、もう時間がないわ。後数分でここを出なきゃ。」
はぁ・・・重い気持ちを引きずりながら、最後のドレスを手に取った。
スカイブルーのドレス。
Aラインの大人びた感じで、裾の丈が左右で少し違う。
胸元が少し開きすぎな気もするけど。
思いきって袖を通した。
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