第9話

鏡に映る自分はなんと無く不釣り合いで。







でも、棗にとってこのドレスの色は一番好きな色だった。








「なんだかなぁ~。」



そう呟いて、意を決する。





ノブを持ってドアを押し開けた。








翡翠と目が合う。






もう、好きなように言ってちょうだい。




棗は翡翠からの言葉を待った。








「店長、この上に羽織る白いストールを。」




翡翠が声をかけたのは、棗じゃなく店長で。






棗はポカンとしたまま立ち尽くした。







え?何か言うまでもない程、似合って無いわけ?





自然と眉が寄る。





褒めて欲しいとは言わないけど、何か言いなさいよね。









「何してんだ!時間ねぇから行くぞ?靴はそれ履けよ。」




翡翠はそれだけ言うと背中を向けた。






「はっ?」




ホントにつくづくムカつく男だわ。





琥珀ちゃんのお兄ちゃんじゃ無かったら、蹴り飛ばしてやるのに!






怒りを沸騰させながらも、棗は言われた通りに足元に置かれていたパンプスに足を入れた。






そのパンプスは今着てるドレスにピッタリな色合いだった。




白を基調にしたマリンブルーのアクセントのある素敵なパンプス。





棗は怒りとは裏腹に、口元に笑みが浮かんだ。











「にやけてねぇで、早く来いよ!」



ムカつく社長が嫌みったらしい顔で振り返る。





「は・・・はい。いますぐに。」




あいつが社長だって事、忘れそうになるわ。



ムカつき過ぎてね。



俺様社長、今に覚えてろ!



心の中で悪態をつく。




「棗様、こちらを。」



店長から薄手の白いレース網のストールを手渡される。



「すいません。」



それを受け取ると羽織った。







「店長、こいつの着てた物は明日にでも社に届けてくれ。支払いはいつも通りに。」



「かしこまりました。毎度ありがとうごさいます。」



店長は店を出て行った翡翠に頭を下げる。







「あ、ありがとうございました。失礼します。」



棗は店長に頭を下げて、急いで翡翠の後を追った。

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