第4話・すぐに応えられなかった…

大広間から客間に移動した時も聖人様は、両手、両足を縛られていて歩けないので騎士が担架で運んでいた。


「……」


聖人様を椅子に無理矢理座らせようとしたから大司教様に声をかけた。


「…大司教様。聖人様は、座りたくないみたいなのでそのままでいかがでしょうか…?」

「そうですね。そうしましょう」


大司教様がニッコリ笑って聖人様を横に立たせた絵図はシュール過ぎて笑いそうになるのを我慢して視線をそらす。


「ロゼリア嬢、フランワ嬢。聖人様のお世話係、ご任命おめでとうございます」

「「ありがとうございます」」


大司教様にお祝いの言葉をもらってフランワさんと私は声を揃える。


「お一人でのお世話係は大変になるのですけどお二人なら回せると思います」


そう言われて大司教様と握手するとポカポカ温かくなり心がフワッと軽くなった。

フランワさんも大司教様と握手する。


「さっそくですけどロゼリア嬢、フランワ嬢には明日から聖人様のお世話係に入ってもらいます。服装はこれですよ」

「…真っ白な服で歩きやすいように広がるスカートですね!頭に被るのはこれですね!」

「シスターみたいな服装だわ」


全身真っ白な色の服に頭に被るのは黒いヴェールを綺麗に畳み直されて渡されると本当に聖人様のお世話係なんだと実感するから立ち上がって聖人様にご挨拶をする。


「改めまして、聖人様。ロゼリア=ウダンと申します。明日からよろしくお願いします」

「聖人様、フランワ=イルナですわ。よろしくお願いしますね」


私もフランワさんも聖人様に挨拶する。


「ロゼリア嬢、フランワ嬢は本日はここまでにして明日から聖人様のお世話係になりますので必要最低限の荷物を持って王宮に来てください」

「必要最低限ですか?」


私が質問してフランワさんは、大司教様からもらった書類を読んでいて、私も目の前にある書類に目を通す。


「聖人様の近くにいてもらいますので聖人様と一緒に王宮暮らしをしてもらいます」

「!?」


大司教様の言葉が情報が多すぎて右から左に通り抜け私はとんでもない発言をしてしまった。


「…聖人様とはもちろん別の部屋ですよね?」

「もちろんです。ご一緒がよろしかったですか?」


大司教様に素直に受け取られて慌てて否定したのにフランワさんは、素直に自分の気持ちを伝える。


「いっ、いいえ!別で良かったですっ!」

「私は尊いお方と一緒の部屋でも構いませんわ」


フランワさん!なんて…大胆な事を…言っていて私が聞いた質問なんて可愛らしい気がした。


「フランワ嬢。残念ながら一緒の部屋は出来ませんよ」

「残念ですわ。身も心も聖人様に捧げるつもりでいたのに…」


フランワさんの言葉を聞いていて恥ずかしくなり視線を泳がしていたらいつの間にか聖人様が対面に座っていて私をジッと見つめていて目がバッチリと合う。


「他に質問はありますかな?」

「いいえっ。ありません」

「ありませんわっ」


視線を逸らせば良いのにそれすら出来なくて絡め取られてる感じがして聖人様から目を離さずに大司教様に答えた。


「聖人様の意見も聞きましょうかね」


そう言って後ろにいた教会関係者の方が聖人様の口の布を外すと私に向かってニッコリ笑って

初めて聞く彼の声。


「…初めまして。ジュン=コリカサンです」


声は低くて男性の声なんだなって感じてお父様とは違う声でドキドキして聖人様の名前を知れて緊張し過ぎて自分の名前を言ってしまった。


「初めまして!ロゼリア…」

「何度も名前を言われてさすがにしつこいですよ」


言葉を被せてニッコリ笑って聖人様に注意されフランワさんはクスッと小さく笑う。


「僕の方は特に意見はありません。ご令嬢方々、明日から働き期待してます」

「……」

「聖人様のご期待に添えるようにしますわ」


フランワさんはすぐに言葉を出して聖人様に応えるけど私は応えられなかった。


「お帰りになってもいいですよ」

「失礼します。聖人様」

「よろしくお願いします〜。聖人様」


客間から出て馬車に向かう。


「明日から王宮暮らしか…。怒られちゃったけど大丈夫だよね?」


不安一杯になりながら馬車に乗り込む。


「本当に聖人様のお世話係になったんだ…私」


自分の頬をつねってみたけど痛いから本物だと思って馬車は家に向かう。


「ロゼリア、お帰りなさい」

「お帰り、ロゼリア」

「ただいま、お父様。お母様」


両親に迎え入れられて聖人様のお世話係に任命された事を伝えると喜んでくれた両親。


「聖人様に精一杯仕えるのよ」

「お前なら大丈夫だ」

「はい、お父様。お母様」


両親から激励の言葉をもらって自分の部屋に行った。


「お嬢様、寂しくなります」

「そうね。寂しくなるわね、ラッカ」


部屋に入り荷物を大きなトランクを取り出してベットに広げて荷物を入れて行く。


「お嬢様、本も持っていきますか?」

「そうね。読む暇あると思うから持っていくわ」


本も入れて服も下着も詰め込んでトランクを閉めた。


「手紙を書くからね!ラッカ」

「お身体にはお気をつけて下さいませ、お嬢様」


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