第17話

「有田五十鈴ちゃんであってる?」



―――…このパターンは知ってる。



もう四度目だ。何度あっても、慣れることはない。恐怖で震えてしまう。



答えを口にせずに無視して彼の横を通り過ぎようとすると、物凄い力で腕を掴まれて近くの塀に押さえつけられる。首を絞められており、声も出せない。




「へえ、百華ちゃんには聞いてたけど、本当美人だよねー。五十鈴ちゃん」



「……っ」



「別に君に恨みがあるわけじゃないんだけど、百華ちゃんがどうしてもアンタを穢したいってうるさいからちょっと付き合ってくんない?」



「…っ、やぁ…っ」



女性の抵抗なんて虚しいものだ。首を絞められたまま、彼は私の肩口に噛み付いてくる。痛みで顔が歪むのが分かった。声が出ない。息もできない。



もしかしてこのまま死んでしまうんではないだろうか?



それは嫌だ。まだ私にはしたいことがたくさんある。悪友の志帆とだって行きたいと言っていた映画もケーキ食べ放題も行っていない。卍が抱いている夢であるカメラマンとしてのデビュー作だって私が一番に見るという約束だって果たせていない。母に……母に私という存在を認めてもらっていない。



―――…まだ、死にたくない。



その時、浮かんだ顔はいつもいつもいつも『五十鈴ちゃーん!!』と嬉しそうに駆け寄ってくるあいつだった。




涙が伝った、その瞬間……私の首から彼の手が離れた。ひゅっと音を奏でながら、私の肺はようやく酸素を取り込めた喜びで息を出す。

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